好美のぼる「妖怪屋敷」(1972年11月29日発行)
「浪人中の西田勇一郎は、おじ宅に居候の身。
ある日、おじは勇一郎に、会社の大株主の娘の家庭教師をしないかと持ち掛ける。
断ることはできず、勇一郎は鎌倉にある、その大株主の大邸宅を訪れる。
大株主の娘は妖子といい、中学三年生の、なかなかの美人。
どこか変わったところのある娘であったが、勇一郎は住み込みで、妖子の家庭教師を勤めることとなる。
しかし、初日から、プレゼントされた車で妖子とドライブしている最中、人身事故を起こしてしまう。
結局、妖子の家族に賠償金を肩代わりしてもらい、勇一郎は妖子の家族の言いなりにならざるをえなくなる。
歓迎会という名の仮装パーティを皮切りに、悪夢のような出来事が次々と勇一郎の身に降りかかる。
監禁状態に置かれた勇一郎は、屋敷から脱出すべく、逃げ道を探すのだが…。
妖子とその家族の正体とその目的とは…?」
好美のぼる先生の代表作の一つであり、怪奇マンガ史上に燦然と輝く怪作でもあります。
袖にて「誰もが知っているようで知らない日本の妖怪たちを、この一冊に封じ込めた」と作者が豪語してますが、その言葉に嘘偽りはありません。
唐沢俊一氏によって何度も紹介されておりますように、屋敷から脱出を試みた際に「部屋に入る→妖怪出現→次の部屋に逃げ込む→妖怪出現→次の部屋に逃げ込む→…」というパターンを50ページにわたって展開しているのが、本書の最大の目玉であります。
めちゃくちゃ泥臭い妖怪たち(注1)が意味不明なセリフを吐きまくる、その異様さは実際目にしないと伝わりません。
また、個性的な妖怪だけでなく、部屋にとび込んだら、岩山があったり、竹やぶがあったり、池があったりするデタラメさも、ここまでやったら逆に爽快です。
下の画像なんか、部屋の中が、海ですよ、海!!
んで、雪山なんかも出てきます。「小そでの手」の「着物がきたい 着物をぬげ 裸になれ だれにも言うなよーっ」は個人的に名言認定です。
作家のジェームズ・ジョイスは言語の中に宇宙を封じ込めようとしたそうですが、一冊の漫画単行本の中に「日本の妖怪たち」を封じ込めようとした、この暴挙…末永く記憶されてしかるべきと私は考えます。(注2)
好美のぼる先生の作品としては今でも通用する破格の面白さですので、復刻する価値は十二分にあります。
・注1
そのスジでは有名な佐藤有文「世界妖怪図鑑」(立風書房/ジャガーバックス/1973年3月15日第1刷・1977年12月15日第24刷発行)。
イラストの担当者には、故・石原豪人先生といったストロング・スタイルな絵師達に交じって、好美のぼる先生の名もあります。
ただ、芸術的と形容してもいいぐらい、華麗な筆致のイラストの中に、ショッカーによる出来損ないの改造人間のようなB級オーラをまとった好美キャラはなかなかに「とほほ…」です。
でも、まあ、「そこがいいんじゃない!」(by みうらじゅん氏のマンガより)
・注2
このマンガの凄みの一つは、好美のぼる先生の「絵」でなければ、ダメだという点です。
例えば、水木しげる先生のキャラで同じことをやっても、あまり面白くはないのではないでしょうか?
「テキト〜」さの頂点を極めた、好美のぼる先生にしか描けないマンガだと思います。
2016年12月7日 ページ作成・執筆