野島葵「古骸の宴」(1991年8月29日第1刷発行)

 収録作品

・「チェイス・ゲーム」
「予備校に通う女子高生。
 彼女は電車に乗ろうとした時、何者かに線路に突き落とされる。
 間一髪で助かったものの、犯人は少年であった。
 少年は彼女に「運がいいね。でも次は保証しないよ」と言って、笑いながら走り去る。
 彼女は彼を追うが、今度はパチンコ店の看板が彼女に落ちてくる。
 これも彼の仕業であった。
 彼女は「殺人ゲーム」の標的にされたようなのだが…」

・「隣人」
「田崎哲夫・かすみは若い夫婦。二人には尚之という赤ん坊がいた。
 田崎一家はあるアパートに住んでいたが、彼らの隣に不愛想な老人が新しく住む。
 老人は度々田崎一家の住む部屋のドアの前に佇んでいたが、ある日、かすみが買い物から帰ってくると、老人がドアを通り抜けて、中に入るのを目撃する。
 だが、部屋には、誰もいなかった。
 夫は経理課に移ってから、毎晩帰宅が遅く、かすみの言葉を取り合ってくれない。
 翌日、彼女が赤ん坊と公園のベンチで休んでいると、老人が彼女の隣に座る。
 老人は「復讐してやる」と呟き、彼女が何を言っても聞く様子はない。
 かすみは席を立ち、急いで帰宅するのだが…。
 老人の正体は…?」

・「黒い殺人者」
「やよいは盲腸の手術後、悪夢に悩まされていた。
 その夢は、若い女性が何者かに殺されるという内容であった。
 久しぶりの登校日、彼女は友人達から最近、起こっている連続女性殺人事件について知らされる。
 新聞を見ると、犠牲者は彼女の夢に出てきた女性と一緒であった。
 その夜も彼女は例の悪夢を見る。
 しかも、彼女のパジャマがいつの間にか血のようなもので汚れていた。
 彼女はあれは予知夢ではなく、自分が寝ている間に殺人を犯しているのではないかという疑惑にとりつかれる。
 殺人鬼の正体は…?」

・「古骸の宴」
「須永美保は平凡な女子高生。
 彼女は最近、奇怪な夢を毎晩見ていた。
 それは、幼い頃の彼女の目の前で、友人の綾が何ものかに八つ裂きにされるという夢であった。
 だが、綾は夢とは違って、死んではおらず、いまだに親友同士。
 綾は行動力があり、何でもこなす才女で、昔からいじめられっ子の美保をかばってくれていた。
 ある日、綾が生徒会の用事があるというので、美保が一人で下校しようとすると、転校生の榊涼子と一緒に帰ることとなる。
 榊涼子は不思議な雰囲気があり、美保が綾について話すと、「本当は強いのに彼女にかばってもらううちに自分でも弱いと思い込んでしまっている」と指摘する。
 更に、涼子は藪から現れた野良犬を何かの力で退散させるが、その時、美保は彼女の右の掌に不思議なアザを見る。
 その夜、綾が美保に電話してくる。
 綾は榊涼子から美保と付き合わないよう命令されたとお冠。
 また、話があると言って、二人は近所の神社で会うことにする。
 美保は神社に向かうが、近づいてはいかないという「根拠のない予感」が高まってくる。
 途中、榊涼子が現れ、美保を「同じ運命を持つ仲間」と呼ぶのだが…。
 榊涼子の正体は…?」

・「黒い訪問者」
「美樹は、受験まで数か月というのに、親が転勤することになり、一戸建てを借りて、一人暮らしを始める。
 と言っても、台所と浴室以外は二部屋しかない、小さな家で、借り賃も格安であった。
 最初の夜、押し入れからガタガタと音が聞こえる。
 開けて覗くと、突然、背後から若い女性に髪を掴まれ、ヒステリックに怒鳴られる。
 女から身を振りほどくと、女の姿はなかった。
 美樹は夢かと思うが、それにしては、妙に実感がある。
 とりあえず、外れた押し入れの襖を直していると、押し入れの奥の壁に小さな子供の手形のようなものがあった。
 翌日、美樹が学校から帰り、家に入ろうとすると、何ものかに腕を掴まれ、中に引き込まれる。
 彼女は不動産屋に行って、事情を聞くと、分裂症になった女が自殺を図り、主人に止められた事件はあったものの、殺人はなかった。
 しかも、その女から美樹が借りるまでの二年間、空家で、総合的に判断すると、あの女は前の住民の生霊としか思えない。
 とは言え、他に行く所はなく、美樹はあの家に帰るのだが…」

・「ジェニファー」
「十九世紀のイギリス南西部、夏。
 若き詩人、グラント・マクドゥールは、田舎に休暇に行き、ジェニファーという村娘と相思相愛の仲になる。
 だが、ジェニファーの父親は人殺しだと村では噂されていた。
 昔、彼は町から来た若者で、ジェニファーの母親と恋に落ちる。
 しかし、その父親は村人とも口をきかない閉鎖的な人間で、結婚には猛反対であった。
 ある夜、若者は血まみれで村を歩いていた。
 村人達が、父親の家に行くと、父親は死んでおり、娘はショックでジェニファーを産み落として死んでいた。
 父親の死は猟銃の暴発事故として処理されるも、村人達は若者が殺したと信じていたのである。
 グラントは、ジェニファーの父親に彼女との結婚の許しを請うが、反対されるばかりで、一年が過ぎる。
 ある日、彼は彼女から突然に別れを告げられる。
 だが、どうしても彼女なしではいられず、嵐の夜、彼はジェニファーの家に行く。
 父親は彼を家の中に入れようとせず、猟銃を突きつけるが、彼の服は血に染まっていた。
 グラントが家の中で見た光景とは…」

 野島葵先生については謎ですが、まずまずの出来の作品集です。
 内容はバラエティに富み、個人的には、心温まる「隣人」と、純愛ものかと思っていたら、ラストでひっくり返る「ジェニファー」の出来が突出しているように思います。
 また、「黒い訪問者」では「押入れの奥に『子供の手形』があったら、過去に児童の虐待死がありました』という昨今、流行りの都市伝説のような内容で興味深かったです。この頃からあったんですね、この手の話。
 ちなみに、一番ひどい話は「黒い殺人者」。これはマジで頭を抱えます。

2023年2月22・24日 ページ作成・執筆

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