多田基生「マルチスワンプ」(2025年1月1日初版発行)

・「第1話 小林さん」
「江崎弘一(20歳)は東京稲田大学経済学部一年生。
 彼は一浪したにも関わらず、入れたのはFランクの大学で、これを全て、二浪を許してくれなかった父親のせいにしていた。
 そういう性格のため、当然、他の生徒たちを心の中で見下し、レジャーサークルに入っても、皆とは打ち解けようとはしない。
 飲み会の場で浮きまくった彼が席を外した時、見知らぬ娘が話しかけてくる。
 彼女の名は小林美心(こばやし・みここ)、商学部一年生。
 彼女もレジャーサークルでは幽霊部員で、二人は飲み会を脱け出し、別の場所で飲みなおす。
 二人の間で話が弾み、美心は思わせぶりなことを言い始めるのだが…」

・「第2話 先生」
「弘一は美心の部屋で一夜を過ごす。
 彼女がシャワーを浴びている間、部屋を見ていると、本棚に「ルーセンタイム(lucentime)」関連の本が大量にあるのに気づく。
 ルーセンタイムはマルチ商法が問題となっている団体であった。
 彼女に話を聞くと、上京したての頃、困っている老夫婦を助けた縁でルーセンタイムのことを知り、セミナーですぐ会員になったという。
 弘一は彼女の優しさ故に強引な勧誘が断れずに会員になったと考える。
 彼は彼女をルーセンタイムから助け出すため、その団体について調べ始める。
 だが、ネットではまとまった知識を得られず、まずはセミナーに参加してみるのだが…」

・「第3話 ようこそ」
「弘一はルーセンタイムの『先生』と一対一で面談することとなる。
 先生は眼鏡をかけた女性で、彼女の手元には先程、弘一が「今の人生の不満」について書いた紙があった。
 弘一は先生の言葉に惑わされないように注意しつつ、美心を脱退させるよう頼む。
 しかし、先生は彼のコンプレックスを巧みに突いてきて…」

・「第4話 ランク」
「気が付くと、彼は自分の部屋にいた。
 そばには美心がおり、眠った彼をここに連れて来たと話す。
 彼はセミナーのことは夢だと思うが、彼の部屋に大量の荷物が配達されてくる。
 これはルーセンタイムの商品で、彼がルーセンタイムの活動を頑張りたいと言って買ったという。
 その代金はルーセンタイムから借りており、借金の額は三百万円…」

・「第5話 バカ」
「弘一はルーセンタイムの勧誘に励むものの、なかなかノルマをこなせない。
 ずるずると月日は経ち、大学には半年間も行かず、更に、家賃を四か月滞納していた。
 そんな八方ふさがりな状況の中、両親が彼の部屋を訪ねてくるのだが…」

・「第6話 セッション」
「美心に勧められ、弘一は山中にある『幸福の村』を訪れる。
 幸福の村は「ルーセンタイムの会員の中でも選ばれた人たちだけが暮らせる場所」であった。
 彼はここで美心と一緒に暮らす決意を固めるが、その前に、本当にこの場所で暮らす意志があるのかどうかを試す「研修」を受けねばならない。
 集会所の中には先生がいて、弘一たちは「集団セッション」をすることとなる。
 弘一たちは輪になって座り、各人が恥かしい過去、犯した犯罪、恐怖について話し始めると…」

・「第7話 解放」
「集団セッションでは皆が自分の苦しみを打ち明け、一体感に包まれる。
 その夜、歓迎会が開かれ、弘一は美心と楽しく食事する。
 食後、彼は酩酊感に襲われるが、美心は気にした様子はない。
 彼女は彼を踊りに誘うが…」

・「第8話 家族」
「歓迎会の最後に出されたメインディッシュ。
 美心は弘一に食べるよう差し出す。
 「家族」になるために…」

・「最終話 幸福」
「歓迎会の締めは「幸福の時」の儀式。
 彼はあらゆる自意識の苦しみから解放されて、幸せになれるのであろうか…?」
(「週刊漫画ゴラク」2024年6月〜9月掲載分)

 帯や裏表紙の惹句によると、「洗脳マルチ沼サスペンス」とのことです。
 「マルチ商法」&「カルト宗教」なら特に目新しくもないでしょうが、この作品ではフェスティバル・ホラー映画「ミッドサマー」(注1)の影響があるようで、ラスト付近にキツい残酷描写があります。
 ただ、単行本が一巻完結ということもあり、全体的に薄味と感じる方もいるかもしれません。
 それでも、サクッと楽しめますので、気になる方は読まれて損はないと思います。

・注1
 コロナ禍がピークだった頃、映画館で新作が公開されず、ガラガラの映画館で「ミッドサマー」の予告編がしつこく流れておりました。
 当時、かなり話題となったので、一応、観ましたが、個人的に好きでありません。
 理由は、ヒロインに全く感情移入ができんかったこと!!
 あんな女を恋人にしたせいで、破滅する男の人が気の毒で、気の毒でたまりませんでした。(全裸で恥部を手で隠して逃げ回る俳優さんの悲哀…。)
 ともあれ、フェスティバル・ホラーの最高峰は「ウィッカーマン」以外にありえません。
 あのクリストファー・リーがヘンな化粧と恰好をして、生真面目な顔で行進するシーンはかなりのインパクトです。
 余談ですが、日本のフェスティバル・ホラーと言えば、多分、「ひぐらしのなく頃に」になるのでしょうか?
 ただ、私は未プレイなので、ちょっとマイナーなPCエロゲー「果てしなく青い、この空の下で…。」(2000年/TOPCAT)をこの場を借りて激しく推薦しておきます。
 田園風景の広がる田舎が舞台なのですが、そののどかさの裏で、背筋の寒くなるようなシーンが幾つもあります!!
 埋もれさすには惜しい作品ですので、再評価を希望しております。

2025年5月29日 ページ作成・執筆

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