千之ナイフ「死の美術館」(2010年11月1日初版発行)

 収録作品

・「死の美術館」(「月刊ホラーM」2005年8月号)
「ある雨の日、美沙は街の一角にある小さな画廊に興味を惹かれる。
 画廊では「灰音龍彦個展 死の美術展」が開催されていた。
 二階に上がると、美しい女性の死体を描いた絵が幾つも展示されており、怖いという感じはない。
 その場に灰音龍彦本人が現れ、彼にとって死は「人生の到達点」または「人間の完成体」であり、そして、「完璧なる美」そのものだと語る。
 灰音は美沙に次回作のモデルを頼むが、美沙にもある思惑があった。
 美沙の友人、彩菜は「死をテーマにした作品しか作らない芸術家」にスカウトされ、そのアトリエに行って以来、消息を絶っていた。
 美沙は彩菜の足取りがつかめるかもしれないと考え、灰音の屋敷を訪れる。
 屋敷の地下倉庫には灰音龍彦のアトリエがあり、また、彼の「死の美術館」があった。
 美沙がそこで目にしたものとは…?」

・「死面」(「絶対恐怖 shock Vol.2」2004年11月号)
「那月はあるお屋敷に住み込み女中として働くこととなる。
 彼女の仕事は女将の息子の雪彦の世話と監視で、雪彦は自殺未遂をしたことがあった。
 彼は誰にも心を開こうとはせず、那月は彼に「深い悲しみに支配された魂」を見る。
 彼は夜ごと、離れ座敷に行くが、そこで女性の面に話をし、口づけをする。
 実は、彼は一つ年上の姉の茉椰がいた。
 二人は姉弟でありながら愛し合い、そのことを知った母親が二人を引き離そうとした時、茉椰は首つり自殺をする。
 彼女の遺言により、茉椰の顔から面を作り、離れ座敷に飾られることになったのであった。
 それを知った夜、那月は奇怪な夢を見る。
 廊下に茉椰の面が現れ、「おまえを待っていた…」と告げると、那月の顔に覆いかぶさってくる。
 目覚めた那月は、恐怖心を振り払うために、離れ座敷に行き、茉椰の面をかぶるのだが…」

・「人形少女の夢」(「月刊ホラーM」2003年8月号)
「莉乃は、女子生徒達の憧れである一都に告白されたことで、いじめを受ける。
 ある日、莉乃の靴箱に一都からの手紙が入っており、彼女は緑公園の横にある洋館の廃屋を訪れる。
 だが、これは二人の女子生徒による罠で、莉乃は閉じ込められ、しかも、煙草の不始末のせいで、火事に巻き込まれる。
 全身大やけどを負い、生死の境目にいた時、「強い憎しみ」によって莉乃は生と死の狭間にある病院に迷い込む。
 この病院の医師、プエルは彼女の身体の使えそうな部分を少女の人形に移し、「生きるチャンス」を与える。
 人形は彼女の仮の姿で、彼女を不幸に陥れた人間の身体から新しい体を作れば、彼女は元の姿に戻れるというのだが…」

・「夜の教室」(「月刊ホラーM」2005年4月号)
「同級生の麻弓が校舎の屋上から飛び降り自殺をする。
 友人の七絵が麻弓の自殺について訝っていると、友香が打ち明け話をする。
 ある時から、麻弓の机に「青沼広」という人物からメッセージが書かれるようになる。
 「青沼広」は「裏の世界の学校」におり、そこは毎日がとても楽しく、自殺をしきりに勧めていた。
 机でのやり取りを続けるうちに、麻弓はすっかり魅入られてしまい、そして、自殺という結果になってしまったのであった。
 友香は先生に相談するも、先生達は机の件を必死に隠そうとする。
 更に、友香の机には麻弓から「裏の世界の学校」へ誘うメッセージが書かれていた。
 七絵は先生の話から六年前の出来事と関係があると考え、卒業文集や卒業生から「青沼広」について情報を集める。
 「青沼の呪い」とは…?」

・「人体デパート」(「月刊ホラーM」2003年4月号)
「人間の体のどんな部分でも安く売ってくれる『人体デパート』の噂。
 美沙は半信半疑であったが、友人の唯は実際にそのデパートで美人の顔を買い、別人のようになる。
 しかし、唯が別人と勘違いされて刺されたことから、「人体デパート」で売っている部分がかつては『誰かのもの』であったことが明らかとなる。
 美沙がそのことを考えながら帰宅していると、通りがかりの車に拉致される。
 気が付くと、そこは檻の中であった。
 隣の檻にいる娘はここは「人体デパート」の倉庫で、自分達は部分取りのためにこれから解体されると教える。
 美沙は檻から出ようと身体をぶつけると、売り物に傷がついてはならないと、医務室に運ばれ、麻酔を打たれる。
 麻酔が切れそうな時を見計らい、彼女はここから逃げようとするのだが…」

・「機械じかけの恋」(「月刊ホラーM」2002年5月号)
「月乃は神世博士の邸にメイドとして雇われる。
 博士は何かの研究に没頭していたが、月乃は実験室には決して近づかないよう命令されていた。
 一月後、神世博士は妹の冥を月乃に紹介して、三人の生活が始まる。
 冥は奇妙な少女で、生きている蝶を握りつぶしたり、月乃が血を流すのを見て、自分の体を傷つけたりする。
 実は、冥は神世博士の作り上げた「機械人間」なのであった。
 神世博士は冥を単なる機械として捉えるが、月乃は冥に「感情」があるのではないかと疑い始める…」

・「黒い蔵」(「月刊ホラーM」2004年2月号)
「美弥は事故で両親を亡くし、本家に引き取られる。
 12年ぶりに訪れた本家の屋敷には幼なじみの高樹、姉の鏡香、伯母の三人が住んでいた。
 だが、伯母は心神喪失の状態で、鏡香は顔に仮面をかぶっていた。
 ここに来る道中から美弥は不安に付きまとわれていたが、どうやら、所々黒く煤けている蔵がその原因であった。
 過去に何かの事件があり、美弥はその記憶を失っているようなのだが…」

・「あとがき 【別の何かになる恐怖】」

 2002年以降の「ホラーM」に掲載された作品をまとめた単行本です。
 「あとがき」にもあるように『別の何かになる恐怖』をテーマに絞った作品が収められております。
 個人的なベストは「人形少女の夢」。
 千之ナイフ先生は思春期の頃、ハンス・ベルメールの球体人形に衝撃を受けただけあって、やはり、「人形」を扱った作品は「禍々しさ」と「艶っぽさ」が段違いのように感じております。

2023年4月23日 ページ作成・執筆

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