愛田真夕美「猫夜叉」(1990年12月15日第1刷発行)

 収録作品

・「猫夜叉」(1989年「セリエミステリー」9月号掲載)
「篠崎なつみは企画部のチーフ、鬼塚琳と婚約し、彼の実家を訪れる。
 彼の実家は長崎県北松浦郡神名島で、血族者だけの小さな島であった。
 島には至る所に猫がいて、守り神として扱われていた。
 言い伝えによれば、昔、無人島だったこの島に餓鬼が流れ着く。
 餓鬼は何年も一人で過ごしたある日、浜辺で美しい女性を助ける。
 二人は共に過ごすようになるが、身籠った女は猫を産んだ後、亡くなる。
 餓鬼は猫を大切に育て、そのうちに人間となったのが鬼塚家の先祖と言われていた。
 鬼塚家の本家では、鬼塚家の人々の前で弁護士により祖父の遺言書が読み上げられる。
 鬼塚家の一家は以下の通り。
 長男・鬼塚宗、その妻の志津子
 次男・鬼塚琳、婚約者の篠崎なつみ(琳には双子の弟、了がいたが、四年前に死亡)
 四男・鬼塚慶
 遺言書によると、全財産は一番最初の孫に譲られるとされていた。
 なつみは実は妊娠しており、琳に打ち明ける機会を窺う。
 しかし、琳の前に、美耶という精神薄弱の少女が現れる。
 彼女は了の恋人で、琳を了と思い込んでいたが、彼女が了にトリカブトの根を食べさせて殺したと噂されていた。
 何度も琳が美耶と一緒にいるところを目撃して、なつみの心は揺れる。
 しかも、鬼塚家の人々が次々と不審な死を遂げていき…。
 なつみが目にする「白い猫」の正体は…?」

・「雪女の囁きが聞こえる」(1990年「セリエミステリー」3月号掲載)
「刑事の倉田俊彦には暗い過去があった。
 七年前、大学のゼミ合宿の最終日、彼は、プロポーズをするために、恋人の涼子とともに外に出る。
 だが、吹雪の中で遭難し、涼子は行方不明、彼だけが助かったのであった。
 ある日、彼は警察署で紛失届を出そうとしている娘に、涼子の面影を見出す。
 彼女はボタンで作ったイヤリングを捜していた。
 更に、俊彦のゼミの教授、大島の研究室で彼女と再会する。
 彼女の名は市川深雪で、郷土史研究のために出入りしているという。
 彼女は涼子と外見は違うが、声はそっくりで、更に、彼が遭難時に幻覚で見た雪女を思い起こさせる。
 バーの手入れの時に彼女を逃がしたことがきっかけに、俊彦は深雪と関係を結ぶ。
 しかし、彼が彼女にプロポーズした直後、ゼミの同期の高山が凍死する。
 彼は俊彦とは恋のライバルで、ずっといやがらせをしてきたが、彼の死に深雪が関わっているらしい。
 どうやら彼女が身に着けているボタンのイヤリングに彼女の秘密を解く鍵があるようなのだが…」

・「硝子の棺」(1989年「セリエミステリー」7月号掲載)
「矢島美奈子は町中で見知らぬ男性に声をかけられる。
 彼は彼女と一緒に暮らしていたと言うが、彼女には全く記憶がない。
 だが、彼は彼女の身体のことを詳しく知っており、また、彼女の記憶には空白があった。
 彼女は彼の勤める旅行代理店を訪れ、話を聞く。
 彼の名は藤堂和臣で、彼の部屋を訪ねると、かすかに記憶が蘇る。
 どうやら彼女は「二重人格」らしい。
 彼のいとこが荻窪で精神科の開業医をしており、彼は美奈子を受診させる。
 催眠療法の結果、彼女にはもう一人の人格「ミナコ」がいて、「ミナコ」は世の中に背を向け、誰も信じないような女性であった。
 更に、「ミナコ」が生まれたのは五歳頃らしく、何らかの原因があるらしい。
 その原因を突き止めるため、彼女は、幼い頃に過ごした生まれ故郷の長崎を訪ねるのだが…」

 「猫夜叉」というタイトルで、高橋留美子先生の人気作「犬夜叉」の影響ありかと思いきや、「犬夜叉」以前の作品でした。
 こちらの方は、レディース向けのミステリーで、どれもうまくまとまっております。
 個人的なベストは表題作の「猫夜叉」で、幻想的な味わいのあるホラー・サスペンスです。(舞台は孤島ですしね。)

2022年4月14日 ページ作成・執筆

その他の出版社・リストに戻る

メインページに戻る