里見有
「血海のノア@」(2019年1月31日初版発行)
「血海のノアA」(2019年7月11日初版発行)
「血海のノアB」(2020年5月14日初版第一刷発行)
「血海のノアC」(2020年12月14日初版第一刷発行)
「血海のノアD」(2021年7月14日初版第一刷発行)



単行本@
・「第1話 迷子」
 あかり・ゆずるの姉弟は父親と共にクルーズ船(ビカルカラタ号)による国内ツアーに参加する。
 実は、父親が飲み屋で特別招待チケットを見知らぬ人から譲ってもらったのであった。
 あかりは早速、カケルという青年にナンパされるが、チャラいという印象しか抱かない。
 そんな時、ゆずるの行方がわからなくなる。
 あかりと父親は彼を捜すうちに、会員限定スペースへと立ち入るが…。
・「第2話 客」
 カケルはナンパの最中、帽子をかぶった子供を見かけ、ゆずると思って追う。
 だが、ゆずるの名をはっきり思い出せず、思いつくまま、名前を挙げていくと、「ミチル」という言葉で子供は立ち止まる。
 振り返った子供はゆずるではなく、長い金髪の少女であった。
 彼女はカケルの胴をいきなりぎゅうっと抱きしめると、甲板の手すりの前に立ち、夜の海を指さし「イクノ」と言う。
 そこに彼女の父親が現れるのだが…。
 一方、あかりの一家は特別チケットの招待客限定のスペシャル・ディナーに招かれる。
 そこで、彼らはカケルの友人達と会う。
 彼らは大学生のコイケ(ショートカットの気の強い娘さん)、トマ(馬面の青年)、ウシロ(キャップ帽に眼鏡の引きこもり青年・カケルの弟)であった。
 彼らもまた偶然手に入れたチケットで来たと言う。
 実際、ここに集まった客は庶民的で、意外と若い人ばかりなのだが、その理由とは…?
・「第3話 歓待」
 夜中、ゆずるが寝床から抜け出し、部屋を出ていく。
 あかりと父親が彼の後を追うと、会員限定スペースへと向かう。
 ある扉の向こうには、西洋の邸の書き割りがあり、ゆずるはその扉に入って行く。
 父親はスマホで写真を撮っているうちに、自分達が閉じ込められたことに気付く。
 あかりはゆずるを追いかけるが、その先には、その日、ゆずるを相手していたエリセという娘が…。
 翌日、カケルはあかりの一家を全く見かけなかった。
 その晩のスペシャルマジックショーにて、あかりは出演し、彼は一安心。
 そのマジックは人間を入れた箱を剣で突き刺すというもので…。
・「第4話 招待」
 マジックショーの件で、カケル達はこの船に対して警戒心を抱く。
 また、ウシロが指摘するように、船は日本から離れているようであった。
 彼らが生き残る方法は次の三つ。
@今すぐこの船から脱出する
A主催者と戦って、計画を阻止する
B次の寄港地まで逃げ延びて、脱出する
 最も現実的なのはBで、その間に船を調べることにするのだが…。
・「第5話 懇親」
 晩、仮装舞踏会が開催される。  舞踏会では「会員」も参加し、大盛況。
 トマやカケルは一緒に踊るよう大勢の女性に請われるも、その意図とは…?

単行本A
・「第6話 再会」
 仮装舞踏会で男の子が何者かに殺害される。
 母親は彼を抱いて号泣するも、父親はそのそばで上の空。
 コイケは母親を慰めるが、周囲の様子がおかしいことに気付く。
 誰も関心を払わず、見て見ぬふりをしている。
 そこに大男が乱入してきて…。
 その頃、カケルはあの少女に手を引かれ、船の底へと向かっていた…。
・「第7話 脱出」
 船の底には奇妙な空間が広がっていた。
 そこでカケルはあかりの父親と出会う。
 少女により、奇妙な空間は普通の船に戻るが、彼らの前に少女の父親が現れる。
 一方、ゆずるはエリセによってデッキへと連れ出されていた。
 エリセの女友達も二人で駆けつけ、ゆずるを巡って、喧嘩になりかけた時…。
・「第8話 選別」
 一方、コイケは仮装舞踏会場からどうにか抜け出す。
 自分の船室に戻ると、トマがベッドで寝ていた。
 その顔は蒼白く、首には噛み傷がある。
 すると、彼が起き上がり、部屋から出ていく。
 廊下には船客たちが溢れ、夢遊状態で歩いていた。
 彼らが向かう先にはプールがあり、周囲は大勢の特等先客がくつろいでいる。
 ここで何が行われるのであろうか…?
・「第9話 嗜好」
 カケルが目を覚ますと、食事用のテーブルに座っていた。
 向こう側には少女の父親がおり、右手にはあかりの父親がいる。
 少女の名はノアで、カケルは彼女の「お友達」なので、この場に招かれたのであった。
 そこで、彼はノアや彼女の父親(カイザー)、そして、他の船客たちが吸血鬼であることを知る。
 その頃、コイケとトマは絶体絶命であった。
 二人の順番は刻々と迫ってきているが、逃げ出す術がない。
 二人の運命は…?
・「第10話 適合」
 ゆずるは一人、船内をさまよっていた。
 彼は甲板でのピンチを幸一郎という日本人に助けられ、彼の部屋に連れて行かれる。
 そこではシェーンという彼の友人が日本人女性に着物のコーディネートをしていた。
 その日本人女性は…?
 また、幸一郎の正体とは…?
 一方、コイケはウシロと再会する。
 船には脱出ボートがあるが、コイケは脱出する前にトマを助けたい。
 二人で吸血鬼の弱点を考えるうちに、コイケはある出来事を思い出す…。

単行本B
・「第11話 決別」
 カケルは人間として短い一生を生きるか、それとも、彼らの仲間となるか選択に迫られる。
 彼は後者を選び、カイザーの女召使に首から血を吸われる。
 更に、その後、傷口に彼女の血を垂らし、彼の吸血鬼化は完了する。
 その頃、プールの方では大騒動になっていた…。
・「第12話 変異」  あかりの父親が目覚めると、部屋にはカケル以外、誰もいない。
 カケルは床にのびており、父親は一緒に逃げようとするも、カケルは彼から慌てて距離を置く。
 吸血鬼化したカケルは凄まじい渇きに襲われていた。
 その時、カケルの血を吸った女召使が部屋に戻ってくる。
 彼女は吸血鬼の注意点と「血族に加わるためのルール」を話すのだが…。
・「第13話 混乱」
 幸一郎がゆずるに脳手術を行おうとしていた時、医務室に大量の急患が運ばれてくる。
 それはアナフィラキシー・ショックを起こした吸血鬼たちであった。
 医務室は混乱を極め、興奮した吸血鬼たちと運営係が対立を起こす。
 その最中、カイザーが医務室を訪れ…。
・「第14話 覚醒」
 混乱したまま、カケルは医務室に向かう。
 そこで目にしたもので彼にあるスイッチが入る。
 彼は「仲間だから殺さなければならない」という考えにとり憑かれ…。
 その後、医務室の中の檻で、あかりは目を覚ます。
 そばにはゆずるの姿もあった。
 彼女が檻から出ると、そこには…。
・「第15話 衝戟」
 コイケはトマを連れ、救命ボートの場所に行くも、操作方法がわからない。
 そこに血まみれのパオラが現れる。
 彼女はずっとトマに目を付けており、プールの件はコイケの仕業と見抜く。
 パオラはコイケの後頭部を掴み、顔を激しく何度も強化ガラスに打ち付ける…。
 その頃、あかりはゆずるを抱いて、医務室から出ようとする。
 彼女の足を何者かが掴むのだが…。
 一方、ノアの部屋では、女召使が殺され、ノアの姿が消えていた。
 カイザーの脳裏に百年前の記憶がよぎる…。

単行本C
・「第16話 別離」
 百年前の英国、ハワード氏の一人娘、エヴァが行方不明になる。
 彼は去年、妻を亡くし、エヴァだけが心の支えであった。
 手掛かりは彼女が猫を捜していたことと片方の靴だけで、エヴァは死んだものとされる。
 だが、エヴァは生きていた。
 ハワードは彼女と再会するも、エヴァは「ノア」としか話さず、仕草や行動は猫のようであった。
 彼はエヴァが心を病んだと考えるが、実際は…。
・「第17話 下降」
 カケルはトマを逃がした後、ある疑問を抱く。
 彼は何故、簡単に吸血鬼を殺せるのか? そして、吸血鬼に殺意を抱くのか?
 呆然とする彼は突如、自分が海の中にいる幻を視る。
 彼は無数の騒音に囲まれ、あまりのうるささに頭を抱える。
 その幻から覚めると、目の前にノアが立っていた。
 ノアはカケルを「ミチル」と呼び、抱きつく。
 カケルがノアに自分がどうなったのか尋ねると、ノアは額を彼の額につける。
 すると、彼の頭にノアの記憶が流れ込む…。
・「第18話 遭遇」
 あかりとゆずるは医務室から逃げ出し、会員限定スペースへと入り込む。
 彼らの血の匂いに気付いたピエロに追われ、二人がある部屋に逃げ込むと、そこはジャングルであった。
 その中に一軒家があり、中を窺っている最中に、あかりは力尽きて失神する。
 目覚めると、家の娘に介抱されていた。
 彼女は自分を「人間愛護」の吸血鬼と言うのだが…。
・「第19話 誤算」
 日本人のミチルは英国に行き、森でノアという少女と出会う。
 彼女のお陰でかろうじて生活ができ、また、肉屋の娘、タニアとも恋仲になる。
 その頃、町では吸血鬼の噂が立ち、犠牲者が何人も出ていた。
 タニアもその犠牲となり、カケルは吸血鬼を突き止める決意をする。
 彼はノアの後をつけ、ハワードの城を訪ねるのだが…。
・「第20話 覚醒」
 メリア(カイザーの昔からの部下)はノアを発見する。
 しかし、ノアの頭部とカケルの頭部が癒着していた。
 切り離そうとした時、下級の吸血鬼たちが群れをなして襲いかかってくる。
 更に、下級の吸血鬼たちはノアとカケルを覆っていく。
 カイザーは幸一郎が開発していた怪物を使い、吸血鬼たちを蹴散らすのだが…。

単行本D
・「第21話 動揺」  船の浸水に吸血鬼たちは大パニック。
 その隙に、カケル、あかり、ゆずるは船の下層部をさまよう。
 やけに落ち着き払ったカケルにあかりはやがて恐怖心を抱き始める。
 一方、カイザーはノアをようやく保護する。
 ノアはエヴァである頃の記憶を取り戻していたのだが…。
・「第22話 意思」
 甲板は吸血鬼たちで混乱を極め、上位の吸血鬼たちでも抑えることができない。
 どうやら彼らは「ノア様に見捨てられた」ようであった。
 メリアは事態を収拾するため、カイザーの部屋に行く。
 カイザーはベッドの中のエヴァの前に座っていた。
 メリアはカイザーに甲板に来るよう乞うが、彼の返事は…?
・「第23話 略奪」
 カケル達は生き残りの人々を集め、彼らと共に甲板を目指す。
 だが、彼らの前に怪物が立ちふさがり、カケルを襲う。
 怪物の圧倒的なパワーにカケルは死んだかに見えた。
 そこに、シェーンの「人形」たちが現われる…。
・「第24話 人」
 浸水は増し、船が傾いていく。
 船員たちは皆、正気を失い、船の復旧は不可能。
 そして、これにはある意外な理由があった。
 その頃、甲板では救命ボートを巡って、吸血鬼たちが争っていた。
 そのうち、太陽光線にさらされていた吸血鬼の一人が…。
・「第25話 深淵」
 カケルは幸一郎から吸血鬼についての詳しい話を聞く。
 また、カケルが何故特別なのか、その推測も…。
 一方、甲板ではカイザーが頃合いを見て、棺と共にボートで脱出しようとしていた。
 吸血鬼たちはボートを奪おうとするが、メリアが全力で応戦する。
 そこにカケルが現われ…。
 生き延びるのは誰か…?

 「吸血鬼もの」の良作です。
 吸血鬼の支配するクルーズ船で人々が餌食になるという設定が良い!!
 逃げ場のない船内で繰り広げられる殺戮ショーの数々は凄惨かつイマジネイティブ。
 また、女性らしい柔らかいタッチの絵ですが、グロ描写は手抜きなしで、そこも好感度が高いです。
 惜しむらくは、ストーリーが理解しにくいこと。
 特に、ノアの行動とカケルの変異の理由がよくわからないままなのはいただけません。
 一応、最後の最後に簡単に説明されてはおりますが、あれですんなり納得できるのは、注意深く読んできた人だけではないでしょうか?(私は何回も読んで、ようやく腑に落ちました。)
 それと、説明不足な点があるのも気になります。
 幾つか挙げますと、
・クラスタ・ノアがもともとどのような吸血鬼なのか?
・メリアとカイザーの関係は?どうしてウサギの仮面をかぶっているのか?あと、どうしてやられたの? 
・浸水の原因は結局、何だったのか?
・カケルの見た海の幻の意味は?
・シェーンの作った「人形」ってどういうものなの?
・ピエロの吸血鬼がボートで脱出していたけど、その後、どうなったの?
 等々…。
 まあ、最後の方は里見有先生はうまく収拾をつけるほどの余裕がなかったのかもしれません。
 と、個人的に残念な点はあるものの、それを超えて魅力のある作品だと考えております。
 ホラー好きには一読の価値あり!!と断言いたします。

2023年10月14〜18日 ページ作成・執筆

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