松本るい「咲耶姫怪異」(1981年8月20日第1刷発行)

 収録作品

・「咲耶姫怪異」(1973年「増刊少女フレンド」3月号掲載)
「戦国時代、結城一族の城が、安積(あさか)一族によって攻め滅ぼされる。  結城一族のたった一人の生き残りである咲耶姫は、猟師(何故かこの時代に銃を持っている)に助けられる。
 人里離れた山奥で、彼女は、多世と名を変え、猟師の息子の与一と共に、姉弟として成長する。
 八年後、猟師の家に、侍の一行が立ち寄る。
 その侍は、咲耶姫の父兄の仇である安積玄蕃の子、忠繁であった。
 忠繁が多世が咲耶姫であることに気付いたため、猟師は多世を逃がそうとして斬殺される。
 与一は馬を奪い、彼女を連れて逃げるが、崖から転落し、急流に呑まれてしまう。
 多世が目覚めると、そこは、安積一族に殺された者達の霊が集まる「死者の原」であった。
 霊達は、妖力を与える代わりに、多世に肉体を捧げるよう要求する。
 こうして、多世は安積一族への復讐を果たしていくが、血への渇望に苦しめられるようになる…」

・「小萩哀歌」(1974年「増刊少女フレンド」11月号掲載)
「またぎの源太は、祖父との二人暮らし。
 ある日、彼は山中で小萩と言う少女と出会い、祖父の病に効く薬草をもらう。
 これをきっかけに、源太と小萩は仲良くなり、互いに淡い恋心を抱くようになる。
 しかし、小萩の正体は、白ぎつねであった。
 昔、源太の父親は、身重の白ぎつねを助けたことがあった。
 その白狐こそ、小萩の母親であったが、白ぎつねを助けたことで、父親は遠い地に移らねばならなくなる。
 源太は、小萩を連れて、故郷に戻るために、白ぎつねを仕留めようとするのだが…」

・「おゆう」(1976年「週刊少女フレンド」6号掲載)
「おゆうは、面作りの師匠の屋敷で働く、身寄りのない少女。
 彼女は、師匠の弟子の藤次と、月日をかけて、想いを積み重ねてきた。
 師匠の娘の紗重は二人の仲を嫉妬し、おゆうを人買いにさらわせる。
 師匠が亡くなった後、藤次と紗重は結婚するが、藤次はおゆうのことを忘れることができない。
 ある日、藤次は竹藪でおゆうの姿を目にするのだが…」

・「鬼無里(きなさ)伝説」(1978年「増刊少女フレンド」9月〜10月号掲載)
「安和(あんな)二年(969年)、平維茂(たいらのこれもち/別名に余五君)は、帝より鬼追討の命を受け、戸隠は水無瀬の里へ下る。
 ある日、山中で狩りをしている時、彼は、紅葉という名の娘と偶然に出会い、思いがけなくキスしてしまう。
 その夜、郡司の館が鬼の襲撃を受けた際、その紅葉こそが、鬼の頭らしいことを知る。
 余五は確かめに山中に入り、紅葉の後を追うが、吊り橋を落とされ、転落する。
 気が付くと、そこは鬼の住む部落であった。
 余五は、紅葉の弟の飛丸が捕らえられた時にかばったことがあり、自由に行動させてもらえる。
 鬼と呼ばれてはいるが、彼らはこの地の先住民族であり、普通の人間であった。
 彼らは朝廷に帰属しなかったがために、先祖伝来の地を追われ、山中に籠っていた。
 余五は紅葉と愛し合うようになり、戦いを避けようと考える。
 だが、帝の命に逆らうわけにはいかず、二人は敵対することとなる…」

 日本の民話や伝説を題材にした作品集です。
 「フレンド」に掲載されたものなのに、何故か、単行本は、講談社からでなく、若木書房から出されております。(理由を御存知の方は教えてくださいませ〜。)
 どの作品も、とても丁寧に描かれており、作者の「真心」を個人的には感じます。
 能の「紅葉狩」にインスパイアされたと思しき「鬼無里伝説」はかなりの力作で、埋もれた良作と言っていいのではないでしょうか。
 松本るい先生の作品、もっと読んでみたいものです。(知る人ぞ知る漫画家さんのようです。)

2020年4月14日 ページ作成・執筆

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