手塚治虫「SF・ファイブ」(1988年8月10日初版発行)

 収録作品

・「虎人境」(「少年キング」1969年8月3日号掲載)
「衣袋五郎はAWCテレビのプロデューサーで、公開番組「世界残酷ショー」を受け持つ。
 ある時、ボルネオの奥地に住むバタク族の少年、キンタブを番組に招くが、彼から「トラ人間」の住む村の話を聞く。
 その村では不思議な治療法があり、呪術の力で、病人と動物の魂を入れ替え、病人の方は獣の頑強な力で病を治し、一方、獣に入った人間の魂は、動物の身体で自由にいる間に健康になるのだと言う。
 衣袋五郎は、少年とその父親の案内で、友人の黒川、カメラマンの肝山と張と共に、サマリンダからマハカム川を遡る。
 艱難辛苦の末、彼らはトラ人間の村に到着し、儀式をフィルムに収めようとするのだが…」

・「三つのスリル」(「希望の友」1968年1月号掲載)
「ロッペイはテストで零点をとり、居残りさせられる。
 トイレに行くために、教室を出ると、廊下の向こうに見知らぬ少年が立っている。
 彼と話をすると、テストが間違って、立たされていると言う。
 彼はX組のデルタで、気が付くと、ロッペイは見知らぬ世界に迷い込んでいた。
 とりあえず、デルタのテストを見ると、
「1 恐竜時代に、オヤコドンという怪獣はいましたか」→いません×
「2 ミヤモトムサシとササキコジロウはどちらが勝ちましたか」→ミヤモトムサシ×
「3 コロンブスはどこを発見したのでしょうか」→アメリカ×
「4 原子爆弾が落ちたのは日本のどこでしょうか」→ヒロシマ×
「5 オリンピックが日本でひらかれたのはいつですか」→1964年×
 と全て正解なのに、何故か×がついている。
 二人は、歴史を確かめるために、タイムマシンで過去に飛ぶのだが…」

・「ジャムボ」(「中一時代」1974年1月号掲載)
「ケープタウン空港からシンガポールに向かう飛行機。
 その機内に、通称ジャムボという猛毒グモが紛れこむ。
 最寄りの空港には寄れず、シンガポールまで四時間、持ちこたえるしかない。
 乗務員は毒グモを刺激しないよう、乗客達に落ち着くよう呼びかけるのだが…」

・「月世界の人間」(「希望の友」1972年4月号掲載)
 H・G・ウェルズ「月世界最初の人間」のコミカライズの模様。
 ただ、オリジナルを読んだことがないので、如何ほどにアレンジされているのかは謎。

・「黄色魔境」(「少年キング」1969年8月31日号掲載)
「1942年頃のアフリカ戦線。
 ドイツ軍のエルマン少尉は、連合軍のアダムソン軍曹とジムの捕虜となる。
 エルマンと共に、日本人とも中国人ともわからない少年も捕まるが、彼はジープを強奪し、三人を拘束。
 ジープは砂漠を突っ切り、謎の古代遺跡に到着する。
 どうやらここは、エルマンがアルジェリアの考古学者から聞いた、アフリカ・リビアの北にあるワダン・ワダン遺跡のようであった。
 少年がこの古代遺跡を訪れた目的とは…?
 そして、夜、遺跡の奥から現れたもの達の正体は…?」

・「紐」(「小説サンデー毎日」1970年6月号掲載)
「極楽。
 お釈迦様が蓮池の周りを散策していると、蓮は下界からの排気ガスや煤煙で皆、枯れていた。
 そこで、業者に「下界の不浄を洗い流す装置」を作るよう命ずる。
 すると、下界では、人々の目の前に、一本の紐がぶら下がるようになる。
 紐はどこまでもついてきて、人々はノイローゼになり、下界から逃げ出そうと考え始めるのだが…」

 「SF」と銘打ってはおりますが、怪奇色の強い短編が揃った名短編集です。
 「少年キング」掲載の秘境もの「虎人境」「黄色魔境」の出来が傑出していると思います。
 当時は「秘境」「魔境」がブームだったのでしょうか?

2021年10月21日 ページ作成・執筆

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