佐藤洋寿
「屍牙姫@」(2017年10月10日初版発行)
「屍牙姫A」(2017年12月10日初版発行))
「屍牙姫B」(2018年5月10日初版発行)
「屍牙姫C」(2019年1月10日初版発行)
「屍牙姫D」(2019年6月10日初版発行)


単行本@(「月刊コミックゼノン」2017年1月号〜5月号)
・「第1話 少年」
 広田修は将来に希望の持てない、無気力な高校生。
 彼は二か月前から村瀬ちかという少女と付き合っていたが、彼女に対して心から打ち解けることもできない。
 夏のある日、彼は橘壮一という少年に声をかけられる。
 橘壮一は眼鏡をかけた隣町の高校生で、毎朝、同じバスに乗っていた。
 壮一は修を洋館に案内し、美輪子という女性と引き合わせる。
 美輪子は裸体に近い格好で、あからさまに修を誘惑していた。
 修はちかのことがあり、帰ろうとするのだが…。
 美輪子の正体は…?
・「第2話 恋人」
 修は部屋から逃げようとするが、美輪子に両足を切断される。
 助けを求める修の血を美輪子は吸い、命だけは助かる。
 だが、彼の身体には奇怪な変化が起きていた。
 ある夜、彼は拘束していた鎖が外されていることに気付く。
 彼は洋館を脱け出し、奇妙なマスクをかぶったまま、自分の家に向かう。
 途中、彼は公衆便所でマスクを取り、鏡を見ると…。
・「第3話 隷従」
「下校途中のちかを見つけ、彼は彼女の前に姿を現わす。
 しかし、彼女は怯え、彼から逃げようとする。
 どうにか彼だと気づいてもらうものの、ちかは轢き逃げにあい、瀕死の重傷を負う。
 彼は美輪子のもとに戻り、彼女に怒りをぶつけようとするが、見つめられると手も足も出ない。
 美輪子はちかの命を救うことができると彼に話す。
 そのためには「狩り」をする必要があった…。
・「第4話 咆哮」
 美輪子が求めているのは人間の心臓。
 しかし、修は罪のない人を殺めることができず、苦悩する。
 その時、彼はちかを轢き逃げした軽トラの男性を見かけ…。
・「第5話 圧搾」
 とりあえず、修は死体を手に入れ、美輪子のもとに戻る。
 すると、彼女は「狩りの仕上げ」を彼に求める。
 それは死体から心臓を抉り出すことであった…。
・「第6話 平穏」
 目覚めると、修はもとの身体に戻っていた。
 美輪子は約束のものを用意しており、彼はちかのいる病院に走り、彼女を回復させる。
 その後、家に戻り、以前に日常を取り戻すのだが…。
・「第7話 襲撃」
 異変は突然訪れた。
 学校から帰る途中、彼の身体は元に戻ってしまう。
 木陰で嘆いていると、彼と同じような格好をした豚鼻男が話しかけてくる。
 豚鼻男は彼がもとに戻ったのは「血の効果が切れたから」と教え、修に誰の「使い魔」か尋ねる。
 だが、そんなこと言われても、修にはさっぱり訳が分からない。
 すると、豚鼻男は自分の腕を伸ばし、修に襲いかかる。
 修はひたすら逃げるのだが…。
・「第8話 猪鼻」
 力尽きた修に背を向け、豚鼻男は立ち去ろうとした時、美輪子が現る。
 豚鼻男は、修が美輪子の「使い魔」と知って狼狽。
 このままでは殺されるが、領地以外の場所(外界)なら勝つ機会もある。
 そう考えて、豚鼻男は美輪子に戦いを挑むのだが…。

単行本A(「月刊コミックゼノン」2017年6月号〜11月号)
・「第9話 復讐」
 修が目覚めると、美輪子の屋敷の中であった。
 しかも、左腕が剣のように変化しており、彼は混乱する。
 そこへ見知らぬ娘が現れ、美輪子がどこにいるか聞く。
 彼女は豚鼻男の主人で、復讐のため、美輪子とその使い魔を殺しに来たのであった。
 早速、修は彼女に半殺しにされ、屋敷の外に連れて行かれる。
 彼女の話から、修は「使い魔」は人間の血を飲むことで一定期間人間に戻れると知る。
 しかも、美輪子の仲間の血の方が遥かに効果的らしい。
 修は娘に襲いかかるのだが…。
・「第10話 抱擁」
 修は美輪子から彼女たちのことについて教えてもらう。
 美輪子たちは「血族」といい、「人間の知のみを糧に生きる生き物」であった。
 「血族」は高い再生能力を備えていたが、ある時、彼らに飢え・日光につぐ脅威が現れる。
 それは「使い魔」の「猟爪(かりづめ)で、「血族」に致命的なダメージを与えることができた。
 以来、「使い魔」は「血族」にとって有用であり、また、危険な存在となる。
 その頃、ちかの身体に異変が起きる。
 彼女は再び瀕死の状態となり…。
・「第11話 狩猟」
 日常を取り戻したかに見えた修。
 その代償は美輪子の「使い魔」になることであった。
 夜になると、彼は美輪子の「使い魔」として「狩り」に出る。
 ただし、彼が狩るのは「血族」とその使い魔だけであった。
 ある夜、彼は使い魔のムサシの後をつけ、千晶という血族の住む家を突き止める。
 そこで、彼はムサシと戦うが…。
・「第12話 謝辞」
 ムサシは強かったものの、美輪子をバックに持つ修には手も足も出ない。
 修がとどめを刺そうとした時、千晶が止めに入る。
 彼女は瀕死のムサシに自分の血を飲ませ、人間に戻した後、自分を狩るよう言う。
 千晶の決意とは…?
・「第13話 接吻」
 美輪子の屋敷に戻り、修は千晶の心臓を絞って、美輪子に飲ます。
 その後、自分も飲んでいいと言われるが、千晶のことを考えると、躊躇してしまう。
 すると、美輪子は血を口に含み、修にキスをして、血を飲ませる。
 修はこのキスの感触がどうしても忘れられない。
 下校途中、彼はちかとキスをするのだが…。
・「第14話 復活」
 修の前に死んだはずの橘壮一が現れる。
 彼は一か月の間、失踪して、三日前に突然、戻って来たのであった。
 通っている工業高校では相変わらず、いじめられっ子であったが…。
 また、彼の美輪子に対する想いは全く衰えておらず…。

単行本B(「月刊コミックゼノン」2017年12月号〜2018年4月号)
・「第15話 宿怨」
 村瀬ちかは工業高校にまで橘壮一に会いに行く。
 修の行方と美輪子について尋ねるためであった。
 一方、修は狩る獲物を見つけることができず、人間に戻れずにいた。
 焦燥を募らせる彼の前に橘壮一が姿を現わす。
 彼こそが修をこの状況に引きずり込んだ張本人であった。
 修は殺意を燃やすが、壮一も「使い魔」へと変身する。
 壮一は巨大な鎌のような「猟爪」を伸ばし…。
・「第16話 傀儡」
 壮一に教えられ、ちかは美輪子の洋館を訪れる。
 壮一によると、修はここにいるらしい。
 美輪子は彼女を優しく招き入れ、お茶を出す。
 ちかが思い切って修のことを聞くと、美輪子は自分はアレルギーのため、外出ができず、修に「お使い」を頼んでいたと答える。
 ちかは安心するも、修の行方は知らないと美輪子に言われ、落胆する。
 彼女が帰ろうとすると、美輪子は館の中を見て行かないかと誘う。
 美輪子は彼女に19世紀英国のドレスを着させ、ツインテールの髪をおろさせると、よく似合うと褒める。
 ちかは美輪子の気配りに涙するのだが…。
・「第17話 底辺」
 橘壮一の家にちかが現れる。
 ちかは彼を誘惑するが、彼女は美輪子に操られていた。
 彼は家の中でちかを殺そうとするが、劣情に駆られそうになる。
 その現場を美輪子に見られ、彼は自己嫌悪に苛まされる。
 翌朝、ちかが目を覚ますと、ゴミ屋敷の中であった。
 音がするので部屋を覗くと、太った女性が何も映らないテレビに向かってリモコンのスイッチを延々と押し続けている。
 ここは橘壮一の家で、頭のおかしい女性は彼の母親であった。
 ちかは彼の壮絶な家庭環境を目の当たりにして…。
・「第18話 屈辱」
 修が壮一から受けた屈辱の数々。
 彼はこの屈辱を晴らすべく、美輪子に「猟爪」の出し方を尋ねる。
 猟爪さえ自在に操ることができれば、壮一を殺すことができるが、そのためには、身も心も「バケモノ(使い魔)」になる必要があった。
 さすがに人間を捨てることは修は躊躇し、敗北感に襲われる。
 すると、美輪子は彼でも猟爪を操ることができる方法があると話す。
 それは彼のための新しいマスクであった。
 このマスクは「人間」が抑圧している「使い魔」を解放することができるという。
 ただし、これになじみ過ぎると…。
・「第19話 情愛」
 修は新しいマスクによって猟爪を自在に操ることができるようになる。
 その代わりに、彼は橘壮一への憎しみへの虜になっていく。
 一方、壮一の中ではちかの存在が大きくなっていく。
 また、ちかも修の変化に戸惑い、彼を頼りにする。
 そういう事柄が彼に意外な変化をもたらす…。

単行本C(「月刊コミックゼノン」2018年3月号〜11月号)
・「第20話 悪寒」
 遂に広田修と橘壮一が対決する夜が来る。
 壮一は不調ながらも、修と堂々と向かい合う。
 雌雄が決しようとした時…。
・「第21話 姉妹」
 戦いの場に環(たまき)という女性と美輪子が現れる。
 環は壮一の主人で、美輪子の姉であった。
 二人は血の繋がった姉妹でありながら、恐ろしく仲が悪い。
 修は血族同士の戦いを目の当たりにするが、それはまるで…。
・「第22話 悲恋」
 環は壮一が村瀬ちかに想いを寄せていることを知る。
 しかも、ちかには美輪子が関わっており、憎さ百倍。
 彼女は使い魔の壮一にちかを八つ裂きにするよう命令する。
 もしも、背けば、彼は屍に戻らねばならない。
 夜の公園で壮一はちかに自分の正体を明かし、彼女を犯そうとするのだが…。
・「第23話 取引」
 グズグズしている壮一に業を煮やし、環はちかの命を奪う。
 壮一も環に殺されそうになるが、彼の怒りが環を死の瀬戸際まで追い詰める。
 彼は環にある取引を持ちかけるのだが…。
・「第24話 覚醒」
 ちかが目覚めると、壮一の家であった。
 彼女はひどい空腹に襲われており、壮一がくれた飲み物がとてつもなくおいしい。
 だが、それは「人間の心臓から搾った血液のジュース」であった。
 しかも、日光に当たると痛みを感じ、鏡を覗くと、自分の口に牙が見える。
 彼女の身に起こった事とは…?
 彼女は壮一が止めるのも聞かず、外に出て…。
・「第25話 変貌」
 修が血族と思って襲ったのは、ちかであった。
 傷ついた彼女は美輪子に保護され、そこで全ての説明を受ける。
 美輪子はちかを優しくいたわり、彼女にある提案をする。
 ちかが新しい使い魔を見つけるまでの間…。

単行本D(「月刊コミックゼノン」2018年12月号〜2019年5月号)
・「第26話 宣告」
 修はちかが「血族」となったことに愕然とする。
 しかも、彼女はそのことを大して気にせず、修と同じ世界に来たことを喜んでいた。
 だが、彼にとっては彼女の「フツウ」こそが救いであった。
 彼は彼女に「フツウの世界」に戻るよう頼むのだが…。
・「第27話 卒業」
 ちかが学校に戻ってくる。
 体育館で待っていると黒板に書置きがあり、修は体育館に向かう。
 そこではちかの企画した「卒業式」が催される。
 それは「フツウの世界」から永遠に訣別するためのものであった…。
・「第28話 拒絶」
 ちかは美輪子からステキな洋館をプレゼントされる。
 舞い上がる彼女は美輪子に修を使い魔に欲しいと頼むが、美輪子は「私のモノ」だからと拒絶。
 ちかは美輪子への憎悪をあらわにして、彼女を殺そうとする。
 そこに修が現れ、学校の件で外が大騒ぎになっていると告げる。
 ちかはそんなことは意に介さず、修に美輪子を殺すよう頼むのだが…。
・「第29話 愛別」
 傷心のちかは夜道をとぼとぼと歩く。
 また、彼女の古傷が開いてしまい、血がどんどん失われていく。
 彼女は橘壮一と会い、彼に助けを求めるのだが…。
 一方の修はちかを追う。
 すると、ちかが壮一と一緒にいるところに出くわす。
 彼女は非常に穏やかな顔で、修と壮一にお礼の言葉を述べる。
 そして…。
・「第30話 遊戯」
 修と壮一の最後の戦いの後、秋が来る。
 壮一の残骸は環によって山奥に捨てられ、一方の修は美輪子の手で献身的な介護を受ける。
 ボロボロの身体の修は彼女に自分を殺すよう頼むのだが…。
 美輪子たち姉妹の「遊び」とは…?
・「最終話 救済」
 18年後。
 修は移植治療のおかげで身体を取り戻す。
 しかし、18年ぶりに見る町には人の姿がない。
 そこに美輪子が現れ、彼に自分たちの館に帰るよう促す。
 彼はその時、「永遠に生きる」ことがどんなものなのかを知る。
 彼の決断は…?

 「吸血鬼もの」の隠れた良作です。
 まず、妖艶でありながらグロテスク、時に淫靡な絵柄が素晴らしい。(注1)
 佐藤洋寿先生は「アシスタントを使わず全作画をほぼひとりで行っている」とのことで、かなりの美術センスを窺わせます。
 更に、ストーリー・テリングも実にうまく、ぐいぐい読ませます。
 ただし、かなり陰鬱な内容で、特に、橘壮一がメインで登場するB巻から「青春地獄変」といった趣が増し、動脈硬化を起こすほど、ドロドロです。
 んで、D巻は予想外の展開の連続で、私はちょっとついていけないところがありました。
 あと、「オリジナルな血族」の四姉妹について説明がほとんどなく、四姉妹のうち、二人(美輪子、環)しかメインで出ないのが残念!!
 と、まあ、思うところはいろいろあれど、良作と断言できる出来なので、興味のある方は読まれて決して損はないと私は思います。

・注1
 冒頭、かなりセクシャルな描写があり、こんな「アダルト路線」で行くのだと鼻の頭から湯気を出していたら、最初だけでした…。
 個人的には、セクシーな女吸血鬼が跳梁跋扈する「アダルト路線」を突き進んでほしかったなあ。

2024年12月1〜3・5〜7日 ページ作成・執筆

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