小山田いく「魑魅(すだま)@」(1998年11月27日第一刷発行)

 私立十種(とくさ)高校の生物部。
 部員は、部長の東森覚(ひがしもり・さとる/三年生)と専女摩未(とうめ・まみ/一年生)の二人のみ。
 覚の祖父は変人だった大学教授で、部室の地下には、祖父のコレクションが収納されていた。
 そのコレクションは「UMA(未確認生物)」と呼ばれるものの標本で…。

・「猫又の巻」
 ある日、白河啓子という二年生が、生物部に、猫の轢死体を持ってくる。
 彼女は、猫を埋葬する前に、生前の姿にしてほしいと頼みに来たのであった。
 覚は彼女の頼みを引き受けるが、右前肢が潰れていて、元通りにできない。
 そこで、彼は、地下室から明治時代頃の「猫又の肢」と言われている標本を持ち出して、猫の死体に縫合する。
 翌日、猫の死体を白河啓子に渡すが、以来、女子生徒が相次いで事故に遭う。
 どの事件にも白河啓子が絡んでおり、更に、事故に遭った女子生徒は彼女をいじめていたらしい。
 覚が、猫又の右前肢について資料を読みなおすと…」

・「河童の巻」
「祖父のコレクションの中でも一、二を争う珍品、河童の仔のミイラ。
 元の持ち主の田崎源二の孫娘から返却を要求されるも、あまりに急な話で覚は戸惑う。
 彼が留守の時、異様なオーラをまとった女性が生物部を訪れる。
 彼女は田崎源二の孫娘で、今は嫁いで林姓になっていた。
 摩未が覚を捜しに行っている間、彼女はミイラを持って姿を消す。
 女性の雰囲気から、摩未は、女性が河童の母親だったのではないか、と想像する。
 だが、女性が持ち去ったのは、万が一の時のためのレプリカであった…」

・「人面瘡の巻」
「祖父のコレクションの一つ、人面瘡の標本。
 これは、猟師が、撃ち殺した大猿に膝を噛みつかれ、化膿したそこに猿の顔が浮かび上がったという、いわくがあった。
 その標本が何者かに盗まれ、女子生徒達が顔に人面瘡を投げつけられる。
 被害者達は、被害にあう前、生物部にその標本を見物に来ていた。
 人面瘡の呪いか、皆、触れた部分が腫れ、人の顔のようなものができて、大騒ぎとなる。
 だが、この人面瘡には、ある秘密があった…」

・「名のない内臓(はらわた)の巻」
 掃除の最中に出て来た、哺乳類の内臓がワンセット入っている標本。
 記録にはなく、首を捻っていると、うっかり、蓋が開いて、中身がこぼれてしまう。
 すると、胃の部分から、人間の眼球と指輪が出てくる。
 警察に調べてもらうと、指輪の持ち主は、高木久作という老人で、十年前に孤独死し、発見された時には死後一週間ぐらい経っていたという。
 そして、標本の内臓は、高木久作の飼い犬のもので、飢えて、老人の目玉と指を食べたものと推測されていた。
 だが、この件を詳しく調べていくにつれ、意外な真実が明らかになっていく…」

・「羽ばたく魂の巻」
「金井という老人が、摩未に会いに、生物部を訪れる。
 彼は彼女に、カラスアゲハの標本を返しに来たと話すが、摩未はその蝶を見て、ひどく怯える。
 旅館で、覚が金井に話を聞くと、ことの経緯は以下のようなものであった。
 金井は蝶のコレクターで、趣味が高じて、人の魂の化身と言われる「地獄蝶」を蒐集していた。
 そのため、彼は葬式のある家の付近をウロウロして、死体の枕元に飛ぶ蝶を探し求める。
 しかし、半年前の明け方、身体が金縛りになり、壁にかけていた、標本の蝶がピンに留められたまま、羽ばたくのを目にする。
 そんな日が何日かあり、彼は蝶を返すことを決意し、記録をもとに一軒一軒回っていたのである。
 そこまで話した時、旅館の部屋に摩未がやって来る…」

 不遇のまま、亡くなられた(ような気のする)小山田いく先生の遺した、隠れた佳作だと思います。
 「UMA」を扱った内容で、ホラーとしても、また、ミステリーとしても読み応えはバッチリ。
 人物の絵柄は残念ながら、ホラーとあまりマッチはしておりませんが、グロ描写は力、入ってます。
 このまま埋もれてしまうには惜しい作品です。

2020年6月3日 ページ作成・執筆

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