小山田いく「魑魅(すだま)A」(2000年2月29日第一刷発行)
私立十種(とくさ)高校の生物部。
部員は、部長の東森覚(ひがしもり・さとる/三年生)と専女摩未(とうめ・まみ/一年生)の二人のみ。
覚の祖父は変人だった大学教授で、部室の地下には、祖父のコレクションが収納されていた。
そのコレクションは「UMA(未確認生物)」と呼ばれるものの標本で…。
・「餓鬼の巻」
「演劇部に貸していた「餓鬼のミイラ」を引き取って以降、東森は何者かの視線を感じるようになる。
髪の長い、切れ長の目の娘が彼を遠くから窺っているのだが、在校生の写真を見ても、似たような感じの人物は見当たらない。
そのうち、彼に、数年前に自殺した女子生徒の霊が憑りついているという噂が立つ。
更に、彼の目の前で男子生徒が校舎から墜落したり、生物部に不審火が起こったりとトラブルの連続。
これらは全て、餓鬼のミイラの祟りなのであろうか…?
そして、謎の少女の正体は…?」
・「人魚の巻」
「夏の終わりのある日。
その日は、東森の友人、由良広基の命日であった。
広基は、東森と入学当初から気が合い、やはり、人魚に夢中という変わり者。
彼は姉と二人暮らしだったが、両親の保険金で生活には不自由しておらず、東森と共に人魚の伝説のある土地へしばしば旅行する。
二年前の夏、二人は、人魚の伝説のある、H−浜を旅行で訪れる。
その夜、広基は海の中に人魚がいると海の中に入り、翌日、水死体となって発見される。
彼の手には、魚の鱗のようなものが握られていた。
命日の日、東森がH−浜に出かける直前、生物部の担当教師に、この鱗は角質した、人間の皮膚だと指摘される。
何かに気付いた東森は、その夜、広基の姉とH−浜で会うのだが…」
・「時の種子の巻」
「東森は、祖父の標本資料を整理していた時、祖父の日記にあった「奇跡の手紙」を発見する。
昭和初期、ある大学の医学部講師だった祖父は、教授の一人娘、片貝清子と恋仲となるが、彼女は雄島という植物学の助教授のもとへ嫁がされる。
その後、彼女と雄島は植物調査の外遊に出て、そのまま、行方不明。
太平洋戦争後、様々な人の手を経て、祖父のもとに清子からの手紙が届く。
夫妻は既にボルネオの熱帯で熱病で亡くなっていた。
手紙には、新発見の植物らしき種子が入っており、祖父はこの種子を発芽させようとするも、それは失敗に終わる。
その話を聞き、摩未は、園芸部の温室で、その種子の発芽実験を試みる。
その時、急な便意に襲われ、背に腹は代えられず、温室の外でやってしまう。
それから、二週間後、摩未が温室に入ると、亡くなったはずの片貝清子の幻が現れる。
種子に込められた、彼女の想いとは…」
・「怪画の巻・前編」
「東森の祖父が手に入れたという、三王寺連介の笛子夫人を描いた油絵。
この絵は呪われていると言われていた。
山王寺連介は戦後、若手の有望画家と言われていたが、1950年、山梨県K市の自宅アトリエ付近から、モデル三人の死体が発見される。
アトリエ内では、笛子夫人の死体があり、アトリエ背後の山林には山王寺連介と思しき、腐乱した自殺死体が見つかる。
犯行は三王寺連介によるものとされるが、動機は不明。
そして、笛子夫人像は彼の遺作であったが、盗まれて以後、行方がわからないままであった。
生物部を訪れていた、美術部の奥原紡はその絵を見て、驚嘆する。
奇妙なことに、絵の笛子夫人は彼女にそっくりであった。
紡は、しばらくその絵を借りるが、美術部で模写していると、その絵の表情が変わる。
更に、絵の周辺に、謎の男が出没するようになる…」
・「怪画の巻・後編」
「絵のことがきっかけで、奥村紡は東森に言い寄るようになる。
だが、摩未は彼女の目の前で、東森と恋仲宣言をする。
どうも、摩未は、謎の男について何らかの事情を知っているらしい。
彼女は、呪われた絵を持って、どこかへと向かうのだが…。
一方、東森は、キャンパスの切れ端が、男性の皮膚であることに気付く。
その頃、摩未に危険が近づいていた。
呪われた絵の秘密とは…?」
・「下闇の香り」(特別作品)
「夏、山名茜は五年ぶりに、南アルプス近くの故郷へと帰ってくる。
彼女は東京で、同じ会社の男性と結ばれかけてきたのに、ささいなことから全てを失なってしまったのであった。
失意のまま、実家で過ごす彼女は、浅井奈津女という少女のことを思い出す。
十四年前の小学五年生の時、奈津女は古い祠の中に入ったきり、忽然と姿を消したのであった。
彼女が奈津女のことを考えていると、少女のままの奈津女が現れる。
どうやら、奈津女はタイムスリップをして、この世に現れてきたらしいのだが…」
株式会社スコラが倒産したためか、ソニーマガジンズから出された「魑魅」の第二巻(最終巻)です。(このあたりの事情は不明です。)
どの回も水準以上と思いますが、「時の種子の巻」は個人的にベスト。
摩訶不思議な内容ながら、一応の筋は通っているのが流石であります。
小山田いく先生は絵が独特で、食指が動かない方も多いようですが、食わず嫌いをせず、是非とも多くの方に読んでいただきたいと思います。
勿体ないですよ!!
2020年11月7日 ページ作成・執筆