坂上泰夫「左近霊異日記」(200円/1964年9月22日発行)

「公儀お庭番(隠密)の瀬川大八郎は元・高遠藩(現在の長野県伊那市高遠)の杉山左近の隠れ家を訪れる。
杉山左近は高遠藩の秘密を握っており、逃亡生活を続けていたが、今、その身には高遠藩の刺客が迫りつつあった。
大八郎は左近を江戸に連れて行こうとするも、大八郎に斬られた刺客の顔を見るなり、左近は切腹してしまう。
任務に失敗し、甲府城に戻った大八郎は賊として追われ、傷を負い、城の堀に転落する。
彼の上司の図書は瀕死の彼を屋敷に運び込み、「忍法死人招き」により、この場に左近の霊を呼ぶ。
それは、大八郎の霊を左近の霊に会わせ、左近の日記の居場所を聞き出すためであった。
左近は大八郎に高遠藩で起こった悲劇について語る。
天和二年(1682年)八月、高遠城月見櫓にて城主松平肥後守正光(保科正光)と家臣は月見の宴を張っていた。
己の下刻(注1)、一本の矢が城主の胸に突き刺さる。
皆、矢がどこから放たれたか調べるも、はっきりしたことはわからず、ただ、大勢による大掛かりな計画らしい。
殿は一命を取り留め、暗殺を企てた者の探索が始まる。
だが、家老の飯島内記が呼んできたのは仙覚という坊主であった。
仙覚は祈祷の後、家来達を呼んで首実検をし、指差された者はその場で斬り捨てられる。
以来、毎夜誰かが犯人と告発され、左近の親友の大井源三郎も殺される。
あまりの非道に、左近はある夜、仙覚の殺害を目論む。
しかし、その直前に家老に一の倉谷の関所に向かうよう命じられる。
今夜、曲者の一味の頭領が領内から逃げ出すと言うのだが…。
高遠藩で進められる陰謀とは…?」
恐らく、原作があるのでしょうが、wikipediaで高遠藩を調べたところ、こんな事件は載っておりませんでした。(大体、保科正光は1631年に死んでます。)
ともあれ、瀕死の人間の魂と死者の魂を会わせ、秘密を探るという発想が面白いです。
ミステリーの要素もあり、また、謎の坊主により次々と家臣が殺されていくサスペンスもなかなか。
坂上泰夫・作品の中ではかなり面白い部類に入ると思います。
・注1
ネットで調べたところ、「己の下刻」は午前11時なので、坂上先生が勘違いをしていた可能性があります。
まあ、私もこのあたりの知識は貧弱で、はっきりしたことはわからないのですが…。
・備考
ビニールカバー剥がし痕あり。前の遊び紙、見返しに貼り付け。p1・2、ページの上部、綴じ外れ。後ろの遊び紙に貸出票の剥がし痕とスタンプ。
2023年5月1日 ページ作成・執筆