坂上泰夫「地獄ばなし」(1962年2月15日発行/170円)
「ある夜、侍たちが肝試しのために荒屋敷に集める。
肝試しを始める前に、佐々木兵馬はこの屋敷に伝わる怪談を話す。
ここには百年前、次期家老を勤める水月兵庫という若侍が住んでいた。
風の激しいある夜、彼の妻が屋敷の中で足音がするので目を覚ます。
兵庫は様子を見に行くが、なかなか帰って来ない。
ただただ待っていると、また足音が聞こえ、こちらに近づいて来る。
誰何しても答えはなく、現れた男の首筋に簪を突き立てると、それは夫であった。
兵庫は何者かに短刀で口を刺され、何も言えずに妻のもとに戻った所、誤って刺殺されたのである。
その後、妻は発狂して自殺をし、以来、この寝室は開かずの部屋となっていた。
くじ引きで坂井与十郎はその部屋に行き、行灯に自分の名前を書くこととなる。
彼の帰りを待っていると、彼の姿はなく、足音だけが聞こえる。
足音が部屋の前まで来たので、襖を開けると、短刀をくわえた骸骨が立っている。
佐馬次郎が切ると、それは与十郎で、彼の口には短刀が刺さっていた。
佐馬次郎は与十郎を斬った責任を問われ、切腹するよう責められるが、どうも納得がいかない。
彼は詰め寄る佐々木兵馬の片腕を切り落とし、皆と別れ、快山和尚のもとに身を寄せる。
翌日、佐々木兵馬はある老人を捜していた。
彼はこの老人から水月兵庫の屋敷の怪談を教えられており、責任を取らそうとする。
老人は兵庫の霊はいると主張し、兵馬は老人を屋敷に連れて行き、仲間たちと共に屋敷に火を放つ。
しかし、屋敷から出る際に、兵馬は床を踏み抜いて身動きが取れなくなり、何故か声が出ず、そのまま、焼け死んでしまう。(片腕のはずなのに、このシーン、何故か両腕がある)
その夜、次席家老の伊崎織部の娘の部屋に兵庫の霊が現れ、屋敷を焼かれたので、この部屋を拝借すると告げる。
織部の息子、善伍は佐々木兵馬と共に水月兵庫の屋敷に放火した一人であり、祟りが自分の身にも及ぶのではないかと怯える。
だが、幽霊騒動はこれだけにとどまらなかった。
佐馬次郎と快山和尚は調べるにつれ、この騒ぎの裏にもっと大きな陰謀が秘められていることを知るのだが…」
「幽霊もの」の佳作で、坂上泰夫・作品の中ではなかなかの面白さです。
特に、前半は好調で、おどろおどろしい雰囲気でぐいぐい読ませます。
ただし、後半は若干、説明不足で、わかりにくいところがあり、ちょっぴり残念。
にしても、主人公の佐馬次郎は後でちゃんと切腹したんでしょうか?
・備考
ビニールカバー貼り付けあり。背表紙上部に痛み。糸綴じあり。前後の見返しのノドに紙テープにて補強。pp56・57、食べカスが挟まって剥げ。後ろの遊び紙に貸出票の剥がし痕あり。
2024年4月9日 ページ作成・執筆