湧井和夫「怪談へび姫」(130円)

「渋谷川の南、土筆が原。
その原の真ん中に豊沢家のお屋敷がある。
豊沢家はこの土地の大地主であったが、屋敷は長い間、空家であった。
また、この屋敷は近隣の人々からは「蛇屋敷」と呼ばれていた。
ある日、医学を学ぶ岸田錦吾は豊沢屋敷に灯りがついているのを目にする。
爺やによると、春姫が旅から帰って来たらしいが、春姫については詳しいことは何もわからない。
ただ、春姫の父の武春は恐ろしい人間で、兄を殺し家を乗っ取ったと言われていた。
また、春姫の母は春姫を産んだ時に亡くなり、春姫は武春の友人で医者の尾形玄介と女中のおときの手で育てられる。
春姫が五歳の頃、武春は旅に出て、その後すぐ、春姫とおとくも旅立ち、以来、豊沢屋敷は無人であった。
それから、しばらくして土筆が原に「白いばけもの」が出るとの噂が立つ。
錦吾もまた、土筆が原で白い着物の女性の後を赤い着物の少女が腹這いになってついていくのを目撃する。
その翌日の夕方、岸田家に豊沢家から使いの女性がやって来る。
春姫が足を怪我したというので錦吾は豊原家を訪れ、春姫と面会する。
春姫にはおとくという女中が付き添い、春姫は縄でグルグル巻きにされていた。
治療の後、春姫は錦吾に何か打ち明けようとするも、おとくはそれを止め、錦吾に二度と来ないよう頼む。
ある晩、錦吾に茂助という男が会いに来る。
彼は春姫の恐ろしい秘密を知っていると話し、豊沢屋敷へ向かう。
だが、土筆が原で何かに噛まれて死亡。
その傷口には巨大な蛇の牙があった。
数日後、茂助の兄の玄吉が通りで錦吾に声をかける。
彼は尾形玄介の息子で、豊沢家には恨みがあるらしい。
錦吾は玄吉に頼まれ、春姫に手紙を渡しに行く。
途中、土筆が原に明かりがあり、錦吾が近づくと、そこに春姫がいた。
錦吾は春姫に手紙を渡すが、春姫は手紙を読むうちに…。
春姫の忌まわしい秘密とは…?
そして、過去、豊沢家に起こった恐ろしい出来事とは…?」
「蛇もの」の嚆矢は故・楳図かずお先生の「口が耳までさける時」(1961年/週刊少女フレンド)と言われておりますが、「怪談へび姫」はそれよりも早い可能性があります。(奥付がないため、発行年月日がわかりないのが残念…。)
内容は、父親の母親に対するDVの結果、娘が蛇女になるというストーリーで、蛇娘が人間に戻った時の苦悩が見所です。
楳図作品のようにウロコを飲ませて仲間にしたり、どこまでもズルズルと追いかけてくる…といった描写はありませんが、毒牙に噛まれると致命的でこれはこれで怖いです。
蛇女の描写も頑張っていて、時代を考えると、良作だと思います。
・備考
カバー欠。糸綴じの穴あり。前後の見返しに紙で補強。読み癖、非常に激しく、切れ・汚れ・欠損多数。pp51・52、大きな裂けを補修。pp74・75、ページの間に何かが挟まり剥げ。pp97・98、下部にコマにかかる欠損。後ろの見返しに貸出票貼り付け。
2025年2月20日 ページ作成・執筆