三田京子「怪談あすなろ夜曲」(220円)
「歌人を志す、高校生の香月菊夫。
彼は、参加した歌会で、名家の娘、九条麗子に心を惹かれる。
容姿は美しく、また、彼女の詠む和歌も、繊細で女性らしい素晴らしいものであった。
菊夫は彼女との再会を心待ちにするが、病弱な麗子は、次回の歌会を欠席。
菊夫は自分の和歌をどうしても麗子に見てもらいたく、彼女の屋敷を訪ねる。
だが、門前で気おくれしてしまい、引き返す途中、小高い丘のあすなろの木の根元に、麗子の姿を見る。
彼女はうずくまり、涙を流していた。(その理由には作品では明らかにされず)
短冊を手渡された麗子は、雨が降ろうと、雪が降ろうと、夕方には必ずこのあすなろの丘にいると菊夫に告げる。
それから、毎日、二人はあすなろの丘で逢瀬を重ね、愛を深めていく。
また、二人の和歌も、想いの深まりと共に、上達していく。
しかし、菊夫は家庭の都合で、高校をやめ、上京して働かねばならなくなる。
菊夫の父は麗子に、菊夫を惑わさないようなじり、麗子は病の床に就いてしまう。
上京する前日の夕方、菊夫は雪の降る中を、あすなろの木を訪ねるが、そこに麗子の姿はない。
菊夫は麗子の屋敷を訪れるものの、菊夫のことを快く思わない女中により、追い返されてしまう。
更に、上京後、菊夫が麗子に送り続けた手紙も全てその女中に破棄されるのであった。
菊夫からの連絡をひたすらに待つ麗子は、ある時、和歌の雑誌に菊夫の投稿した和歌を発見する。
以後、この雑誌が二人を結びつける絆となり、互いに相手への愛を胸に燃やしながら、和歌を投稿し続ける。
春が来て、一端の歌人と認められた菊夫は、あすなろの丘に戻ってくるのだが…」
メローな作品です。
三田京子先生の作品の中でもすっきりしていて、読みやすいです。(後半にちょっと「?」なところはありますが…。)
作品中には、自作と思われる和歌が頻繁に載せられ、何かとってもポエミ〜、ぶっちゃけ浮世離れしております。
やけに文学少女くさいところも三田京子先生の特色の一つでありますが、そこが最もスマートに表現された作品だと思います。
・備考
ビニールカバー剥がし痕あり。前後の遊び紙にセロテープの茶色い痕あり。経年の割には美本(誰も借りなかったのか?)。
2016年11月29日 ページ作成・執筆