三田京子「黒い舞台の三つの星」(220円)



「露子は考え事をしているうちに、雪山で遭難、行き倒れてしまう。
 だが、あっさりと復活、家へ戻るが、いつの間にか露子の顔は美しく変貌していた。(このくだりがあまりにシュールなので、ご確認ください→@A)(注1)
 以前より芸能界に憧れていた露子は単身上京し、すぐに有名な作曲家に認められ、「織原ゆか」の芸名で、華々しいスター街道を歩み始める。
 しかし、コンサートの最中、若い女性ファンの投げたテープに締め付けられ、窒息死しかける事件が起きる。
 病院で療養する、ゆかの病室を、今度コンビを組むことになる橘光夫が見舞いに訪れる。
 しかし、光夫はゆかの顔を見るなり、驚きの声を上げ、よそよそしい態度のまま、逃げるように退出する。
 結局、共演の話は光夫の方から断られ、ゆかは不審を拭えない。
 だが、会社命令で、ゆかと光夫は北海道に巡業へ出かけることになる。
 そこで、光夫の隠された過去の悪行が明らかになる…」

 三田京子先生にしては珍しい現代もので、しかも、芸能界の内幕を扱ったものです。
 もちろん、三田先生にとっては芸能界は「ねたみ等の人間の醜い感情のうずまいている所」でしかなく、作中には、実力のある歌手に憧れるものの、スターとして振る舞わねばならず、苦悩する描写等、スターであることの空しさや不自由さも(現実に即しているかはどうかは別として)描かれております。
 ただし、ストーリーは混乱しまくりで、決して良作とは言えません。
 原因は、ストーカーのように主人公達につきまとい、様々な嫌がらせをする美香の存在だと私は思います。
 このキャラがストーリーの鍵を握るのかと思いきや、単なる歌手志望のファンでしかなく、拍子抜け作先生です。(もっと深くストーリーに絡ませるか、もしくは、バッサリ切った方が良かったと思います。)
 そして、作中、延々とスターの地位に苦悩し、綺麗事をグダグダ述べていた光夫は、ラスト近く、後ろめたい過去が明らかになるのですが、それまでのキャラとの落差が激しすぎて、呆気にとられること必至です。
 と書きましたが、この作品、派手な見せ場が幾つかあり、個人的には楽しめました。
 まずは、織原ゆかが美香の投げたテープによって窒息させられる描写。(貴女は歌舞伎に出てくる「土蜘蛛」か何かですか?)

 また、ラスト、雪の中から、光夫にだまされて、自殺した恋人の死体が現れ、雪崩と共に光夫を連れ去る描写も、クライマックスにふさわしい、豪快さです。

 そして、巻末の読者参加コーナーのスリラーサロンでは、読者そっちのけで、三田京子先生が自身のことを語っております。
 簡単な自己紹介の後の、散歩の際の季節の移り変わりについての文章は女性らしい繊細さが窺えて、味わい深いです。
 何だかんだ言ってますが、かなり楽しめた作品でありました。

・注1
 このシーンは、唐沢俊一氏・監修「まんがの逆襲 脳みそ直撃!怒涛の貸本怪奇少女マンガの世界」(福武書店/1993年11月10日発行)にて、ちょっぴり紹介されております。(p178)

・備考
 ビニールカバー貼り付けあり。糸綴じあり。後ろの遊び紙に貸出票の貼り付けあり。

2018年1月8日 ページ作成・執筆

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