しきはるみ「怪談骸骨女」(220円)

「急な時化(しけ)に遭い、波にのまれた、漁師の徳七。
 徳七が意識を取り戻すと、地元の漁夫が近づかない、「天狗の鼻穴」と呼ばれる岩島だった。
 その岩島の洞窟の奥にまで流されてしまったのだが、そこで一体の人骨を発見する。
 一か八か泳いで、村まで帰ろうとする徳七だが、背後で骸骨の泣き声が聞こえる。
 こんな所では成仏もできまいと徳七は哀れみ、骸骨を背負って、海へ飛び込むのだった。

 夜遅くにようやく村まで泳ぎ着いた徳七はとりあえず、骸骨を家まで持ち帰ることにする。
 老母は骸骨を見て驚くが、事情を説明して、明日、寺の和尚に供養してもらうことに決める。
 その夜、寝ている徳七を呼ぶ女性の声がする。
 徳七が目を覚ますと、骸骨女が喋っているのだった。  驚く徳七に骸骨は「お月様の光を浴びた時から急に話せるようになった」と理由を説明する。
 徳七がどうしてあんな岩穴にいたのかと尋ねると、岩穴で徳七にあってからのことは覚えているが、それ以前のことは覚えていないと言う。
 そして、骸骨女は徳七にある提案をする。
 骸骨女を使って、城下で見世物をして、金儲けをすること。そうすれば、時化で失った舟も買う金も手に入る。
 その代わりの条件として、夜には骸骨女を月光と夜露にあてること。骸骨女の出所を誰にも明かさないこと。そして、三十七日目にはどこかのお寺に納めて葬ることを徳七に約束させるのだった。

 翌日、徳七は早速城下に赴く。
 道端で骸骨女の歌と踊りを披露すると、大評判。
 これが近くで見世物小屋を開く興行師の目に留まり、契約すると、徳七の骸骨使いは連日大入り。
 その間も、徳七は骸骨女との約束を守って、夜には月光を浴びせていた。
 二人並んで座り、澄んだ満月を見上げていると、徳七は骸骨女に名前をつけようと考える。
 思案の末、徳七は「お道」という名前を思いつく。
 骸骨女もその名を気に入り、徳七に「お道」と呼ばれ、二人は楽しく笑うのだった。

 翌日、徳七は興行師から総入れ替えで一日三回にしてはと言われる。
 お道にこのことを話すと、表情(?)は暗いものの、承諾する。
「がんばってみますわ」と言うお道の心意気に感動した徳七がお道の手を握ると、お道は「あれ!」と叫んで、手を引っ込める。
 そして、「せつなくて このまま体中がバラバラになってしまいそう」だから、もう触らないようお道に言われる。
 徳七はお道に自分の心中を明かそうとするが、月が雲に隠れてしまったので、帰ろうとお道に言われ、言いそびれてしまうのだった。

 一日三回の興行が始まるが、生身の人間でないお道にとって、かなりの負担を強いるものとなる。
 一週間後、月夜に肩を落として歩く、お道の姿を見て、徳七はお道を見世物に出すのをやめると切り出す。
 自分は大丈夫と言うお道に徳七は他の理由も明かす。
 徳七は骸骨姿のお道を他の人間の前に晒すことが嫌になったのだ。
 一刻も早く弔いをして、見世物で稼いだ金で立派な石塔を立てようとまで言う。
 ほろりときて、涙(?)ぐむお道に、徳七は自分の本心を告白しようとする。
 が、生身の者と宙にさまよう魔性の者が一緒になるわけにはいかないと、お道に押し止められるのだった。

 そんな問答の最中、わきで隠れて、二人の会話を立ち聞きしていた悪者がいた。
 悪者は徳七を殴り倒し、お道を奪う。
 徳七は今まで稼いだ金を全てあげるから、お道を返してくれるよう懇願する。
 しかし、悪者はお道を使って、他の土地で骸骨使いとして稼ぐんだと、刃物で徳七を脅して、返そうとしない。
 すると、今まで黙っていたお道が「きいたわ」と口を開いた。
 お道は悪者の声を聞いて、記憶を取り戻したのだった。
 骸骨女の本当は伊良崎の庄屋、浅右衛門の娘「お千代」といい、この悪者にだまされて連れ出され、身代金を奪われた挙句、崖から海に沈められたのであった。
 悪者はこの骸骨が自分が過去に殺した娘の骸骨であることを知り、その場から遁走するが、骸骨女は宙を飛び、悪者を追いかける。
 叫び声が聞こえ、徳七がそこへ駆けつけると、地面にバラバラになった骸骨が散らばり、悪者は喉をしゃれこうべに噛みつかれ、息絶えていたのだった。

 徳七は寄せ集めた骸骨を寺に葬った後、岬の突端に立っていた。
 徳七はお千代のことに想いを馳せ、お千代が自分の心のうちを聞いてくれなかったことを責める。
 徳七のお千代への思慕は真剣なものだった。
 徳七がお千代の後を追おうとした時、一人の娘が彼を呼ぶ。
 見知らぬ娘に名を呼ばれ、訝る徳七に、娘は自分は伊良崎の庄屋、浅右衛門の娘、お輝だと自己紹介をする。
 昨夜、浅右衛門の夢に、嬉しそうなお千代の姿が現われ、徳七を家に連れて来るよう言ったという。そこで、お千代の妹のお輝が彼を迎えにきたのだった。
 戸惑う徳七の目に、お輝の身体から白くかすんだ、骸骨姿のお千代が離れていくのが映る。
 お千代は徳七に手を振りながら、自分に言うつもりだった言葉を、お輝に言うように徳七に伝える。
 最後に「徳七さん さようなら!」と別れを告げ、お千代の骸骨は消えていった。
 お千代の姿を見送って、徳七は浅右衛門の家に行って、浅右衛門に会うことを決心する。
 そして、お輝に、姉のお千代の分まで幸せにすることを約束するのだった。
 おしまい」

 骸骨と人間の恋愛を描いた珍作です。
 ナンセンスなストーリーとは言え、「人情もの」のツボをばっちり押さえてますので、しみじみとした味わいがあります。
 ストーリーも大きな破綻はなく、程よくまとまっていて、傑作とまではいかないものの、チャーミングな小品と言った風情でしょうか。
 骸骨女の描写がかなりテキト〜ですが、これがリアルだったら、とてもストーリーに説得力を持たせることができないと思いますので、これはこれでOKなのであります。(実際、骸骨女のちょっぴり写実的な描写がありますが、かなり怖いです。)
 しきはるみ先生の絵のおかげで、全体的に「ほのぼの」としておりまして、そこが最大の魅力でしょう。

 ちなみに次回予告は「怪談一つ目少女」が紹介されております。
 入手は余程の機会と銭に恵まれない限り、覚束ないでしょうから、予告画像だけでも載せておきます。

・備考
 状態かなり悪し。カバーを含めて、全体的にボロボロ。カバーにビニールカバー剥がし痕あり。しみ、汚れ、切れ、欠損、数多くあり。pp5〜8、21・22、25・26にかけて大きな切れあり(コマにかかる切れも多くあり)。pp23・24、31〜34、65・66にコマにかかる欠損。pp45・46、ページの1/3程度が破れて欠損。

平成26年11月28・30日 執筆・ページ作成

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