森由岐子「幽霊の泣く夜」(220円)
「柳かおると愛子は、両親を亡くし、この世にたった二人の姉妹。
長い間、貧しい生活を送ってきたが、姉のかおるが新進作家として、まずまずのスタートを切り、姉妹の生活も安定し始める。
かおるは、先祖が小さいながらも城を構えた武将であることに誇りを持っており、一軒家を持つことを望む。
ある日、もの凄く安い土地の話が、かおるのもとに舞い込む。
そこは、姉妹の祖先が過去に治めていた土地であり、かおるは運命を感じて、購入を決意、数か月後には新居も出来上がる。
ところが、夜な夜な、愛子の部屋の窓の向こうに、白装束の女性が現れ、むせび泣く。
その女性は、この土地で姉妹が最初に写真を撮った時に何故か写っていた女性であった。
愛子は気味悪がり、この屋敷を手放そうと姉に訴えるが、かおるは聞き耳を持たない。
が、かおるもこの泣き声の主を目の当たりにする時が来る。
その時を境に、かおるの仕事は徐々にうまくいかなくなる。
泣く女性の正体は…? かおると愛子の姉妹と何か因縁があるのであろうか…?」
今となってはオーソドックスな怪談話ですが、なかなか読ませます。(貸本マンガにしては珍しく、大きな破綻はありません。)
この作品で個人的に面白いと思ったのは、新進の女流作家、柳かおるの描写であります。
気が強く、見栄っ張りな女性と描かれており、編集者が後輩の男性作家を「先生」付けで呼んでいるのに、女性の自分には「さん」付けで呼ぶことに腹を立てる描写なんかは、もしかして、森由岐子先生自身の経験なのでしょうか?
また、女の腕一つで自立しようとする、ガッツ溢れるかおるの描写が、森由岐子先生の御姿がオーバーラップしてしまいます。(注1)
確かに、途轍もないガッツがなければ、半世紀にも渡って、「現役」の漫画家としては活躍できないでしょう。
とりあえずは、再評価が一日も早くなされることを祈っております。
・注1
柳かおるが書く作品が「とてもロマンチック」(p23)と述べられている点も興味深いです。
これも森由岐子先生の資質でありましょうか、読んだ範囲で判断すると、先生の作品には「とてもロマンチック」な作品が多いです。
ただ、たまに怪奇マンガのジャンルを遥かに飛び越えている「悪女が笑う赤い部屋」「私を招く死の世界」「奇怪な恋の話」(どれも貸本/ひばり書房)といった作品があって、才能の奥深さに心打たれます。
・備考
ビニールカバー貼り付け。後ろの遊び紙がp124に貼りつき、一部、剥がれ。天小口に数字のスタンプ押印と文字の書き込みあり。シミ、切れ、汚れ、目立つものは少ないが、多少あり。
2016年3月25日 ページ作成・執筆