谷ゆきお「紅蜘蛛鏡」(220円)
「江口吾郎は、羊羹メーカー、丸亀本店のホープ。
吾郎には千世子という恋人がいたが、店の女主人である時江に結婚を迫られる。
千世子と共に一生うだつの上がらない使用人で過ごすか、千世子を捨て、店の主人の座に就くか、吾郎の心は揺れ動く。
ずるずると時江との結婚話は進んでいき、遂には結婚式に日取りまで決まってしまう。
ある夜、人気のないところに呼び出された吾郎は、千世子から妊娠したことを知らされる。
だが、吾郎は頬を赤らめる千世子に手切れ金を渡すと、あっさり心変わりを告白。(左下画像を参照のこと)
吾郎の冷酷な態度に千世子は逆上して、隠し持っていたナイフで吾郎を刺す。
反撃する吾郎であったが、うっかり千世子を刺殺。
慌てて千世子の死体を始末しようとするが、地面では、千世子のペットだった紅蜘蛛が吾郎に対して「呪」の文字を描く。(右下画像を参照のこと)
時は流れ、時江と結婚した吾郎は丸亀本店の社長としてバリバリやっていた。
そんな彼のもとに、埋めたはずの千世子から結婚祝いが届く。
それは、古風な女物の鏡台であった。
その鏡台に込められた、千世子の霊が、吾郎と時江に怨みを晴らそうとする…」
楳図かずお先生の「紅ぐも少女」の影響を受けたかと思いきや、全く雰囲気は違います。
「現代怪談」と銘打っている通り、なかなかのアダルト・テイスト。(エロいというより、「大人向け」という意味で。)
ストーリーとしては、前半が、セオドア・ドライサー「アメリカの悲劇」のように、「貧乏な青年が、金持ちの女とくっつくために、妊娠した恋人を殺す」というもの。(注1)
後半は、恋人の怨霊の憑りついた鏡台が引き起こす怪奇現象がメインとなり、ラストは「リインカーネーション」で決めてくれます。
同じ作者による「奇談シリーズ」と較べると、キテレツな要素は少ないのですが、この殺伐とした雰囲気は捨てがたいです。
また、元となるネタはあってもアレンジ具合は相変わらず「独特」で、個人的には、かなり好きな作品です。
・注1
ちなみに、「アメリカの悲劇」では謀殺ではなく、ボートが転覆した際に、溺れる恋人を見殺しにする、というものでありました。
でも、裁判では謀殺扱いになり、主人公は電気椅子送りになります。
この小説の映画化したものが「陽のあたる場所」という有名な映画なのですが、未見です。
・備考
ビニールカバー貼り付け。糸綴じあり。前後の見開き、ボールペンでのぐるぐるな落書きあり。pp17・18、コマにかかる裂けあり。後ろの遊び紙に貸本店のスタンプあり。
2017年2月9・10日 ページ作成・執筆