池上遼一「すばらしき時代」(220円/1967〜68年頃)
収録作品
・池上遼一「すばらしき時代」(1967年5月に完成)
「火星旅行から地球に戻る途中の宇宙船。
宇宙船には五人の観光客と自動操縦機の操縦士が乗り込んでいた。
医学を学ぶ青年とその美しき恋人、中年の男性、エンジニアの青年、老紳士の五人は、火星旅行の余韻を胸に、和気あいあいと過ごす。
しかし、自動操縦装置の一部が爆発を起こし、操縦士は失明してしまう。
宇宙船は暗黒の宇宙を漂流することとなり、「1 bit 2 bit 帰れな〜い」(注1)と皆、泡喰うことに。
装置の修理は素人には手に負えず、最後の手段は、失明した操縦士に角膜を移植することだった。
そして、青年と老紳士以外の三人で、誰が角膜を提供するか、くじを引くこととなる…」
「ガロ」に掲載されたものらしいです。(ちゃんと確認とってません。)
陰惨な内容なのに、あまり知名度はないようです。復刻等、いまだなされていないのでありましょう。
・滝田ゆう「終列車」
「終列車を待つ、一人の男。
男は自殺をするつもりであったが、列車はちっともやって来ない。
それもそのはず、前の駅で飛び込み自殺があったのだ。
男は心変わりをして、自殺をやめる決心をするのだが…」
ブラック・ユーモア溢れる怪奇短編です。
滝田ゆう先生は数は多くありませんが、幾つか怪奇マンガを描いております。
どれも他の人には真似のできない味を持つものばかりで、独特です。
滝田ゆう「おこつ狂騒曲」に再録されております。
・北川義一「ぬかるみ」
「あるアパートに住む、貧乏浪人生。
そのアパートの管理人の老夫婦は新興宗教にはまっていた。
受験勉強に励もうとするも、老夫婦の勤行の太鼓の音が気になって勉強が手につかない。
ある日、同じく太鼓の音に悩まされる近所の主婦達の抗議により、太鼓の音は鳴りを潜める。
が、その静寂が逆に落ち着かず、青年は、騒音に対して常に身構えてしまい、無気力に陥ってしまう。
そして…」
わかる!! この主人公の気持ち、痛いほど、わかります!!
私も若い頃、ボロ・アパートに住んでいたことがありまして、隣の奴が夜中にでかい音でテレビを観やがるんです。
こういうものは一度気になると、頭から振り払えなくなるものでして、そのたびに、ドアをどついて、静かにさせたものです。
が、そのうちに、夜、寝ようとしても、隣が留守だといつ帰ってくるかが気になって、なかなか寝付けないのです。
寝ていても、そいつが帰ってくる気配で目が覚めてしまい、ずっとそいつがゴソゴソやっている音に耳を澄ましているうちに、眠気は消えてしまうのです。
そんなこんなで、寝つきを良くするために始めた寝酒が今に続いて、ゆっくりと、しかし、確実に健康を蝕んでいってます。
(別に被害者面して、同情を買おうしているワケではありません。私も若く、思慮が浅かったので、お隣と冷静になって話し合うとか、引っ越しするとか、そういう考えが全く思い浮かびませんでした。もっと別のやり方があったはずですが、まあ、後の祭りであります。)
・畠大輔「狭い箱」
「汚職政治家や悪徳富豪ばかりを狙う大強盗団。
その本拠地が日本にあり、それを探るために呼び出された13号。
彼らのアジトは純喫茶「あなぐら」の地下室にあるらしいのだが…。」
怪奇マンガではなく、スパイ・アクションです。
アクション描写はいたずらに大げさなだけで、今現在からすると、大して面白味のあるものではないかもしれません。
ただ、1964年の東京オリンピックに関して、こう述べられております。
『オリンピックが終わったあと 何が残った?
やりかけの道路工事…
外人のいる間だけ いいところを見せようとする日本人の虚栄心だけではなかったのか…』
2021年の東京オリンピックが実り多きものであるよう、ただただ祈るばかりなのであります。(はたから見ても、前途多難な印象が拭えません。)
個人的なベストは、神経症な、北川義一先生の「ぬかるみ」です。(御本人の実体験ではないでしょうか?)
イヤな記憶が蘇えりました…また、寝酒が増えそうです…。
・注1
プログレシブ・テクノ・ポップの名曲であり、また、ポンキッキでの屈指のトラウマ・ソングとしても有名な、PEGMO「SOS!! ペンペンコンピューター」より引用。
小学生の頃、近所の子供から借りたポンキッキの歌のカセット・テープで、「おふろのかぞえうた」(これもテクノ・ポップの名曲!!)とともに、聴きまくったものです。
「水金地火木土天海冥 とびこし ピュー」の歌詞を考えた人は天才だといまだに思っております。
・備考
ビニールカバー貼り付け。後ろの遊び紙、書き込みあり。後ろの袖に「きくや」と赤鉛筆らしき書き込みあり。本の後半、下隅が歪み。
2016年5月25日 ページ作成・執筆
2019年4月26日 加筆訂正