「怪談・31」(発行年月日不明/150円)



 収録作品

・いばら美喜「印画紙」
「息子の病死をきっかけに麻薬トレーダーから足を洗う決心をした男。
 しかし、ギャング団による追っ手により、命を奪われる。
 ふとしたことからギャング団の下っ端は、その男の息子の写真を入手する。
 すると、写真からその息子がぬけ出し、追っ手のギャング団を虐殺。
 写真を懐に入れていれば、敵がないことを知った下っ端は…」
 非常に面白いです!!
 菊地秀行・編「貸本怪談まんが傑作選 怪の巻」(立風書房/1991年7月10日発行)にて復刻されておりますので、是非ご一読を!!
 荒唐無稽な内容を、巧みなオチでさらっとまとめ上げる手腕。唯一無二と言わざるを得ません。

・小島剛夕「いまひとたびの」
「切支丹宗徒として磔刑に処せられようとする青年。
 彼は以前は貧しい足軽であった。
 屋敷の姫君に叶わぬ想いを寄せるものの、身分の低さ故、その想いは踏みにじられてしまう。
 自堕落な生活に身を落とした青年は、とある夜、隠れ切支丹の集会に迷い込む。
 そこで出会った神に仕える乙女、サリアは、過去に思いを寄せていた姫君とそっくりだった…」
 紛う方なき名作であります。
 これまた上記の本で復刻されておりますので、機会ありましたら、ご一読をお勧めいたします。
 ひばり書房・つばめ出版の作品に限らず、小島剛夕先生の復刻がちっとも進まないのが、残念でなりません。
 読めば、若い人達にも、興趣を感じる人が多いのではないでしょうか? また、海外の読者にも充分アピールする内容だと思います。
 どれも似たようなオタク・アニメを「クール・ジャパン」と称して売りにする以前に、こういう作品を海外に紹介して、日本のマンガ文化の層の厚さを示してみたら、どうでしょうか?

・多摩海人「0(ゼロ)の男」
「交通事故にあった青年。
 死んだはずの彼は何故か生きていた。
 が、砂浜を歩いても足跡がつかず、ビルの壁を垂直に歩いたりして、妙に身体に実感というものがない。
 彼は自殺を考えるが、投身自殺をしようとしても、滝壺にもう一人の自分の姿を認める。
 また、電車に跳びこもうとしても、もう一人の自分が先に跳び込んでしまう。
 彼は自分の家に戻るが、そこには無数の自分の分身がいた。
 一体、彼に何が起こったのだろうか…?」
 多摩海人先生は脱力系の「フヌケ〜」なマンガで、その筋では有名な方であります。
 この作品はちょっぴりSFテイストの入った力作なのですが、やはり「フヌケ〜」であります。
 ネタばれなのですが、気になる方もいるかもしれませんので、結末を書いておきましょう。
 何故、青年の分身が多数いるのかと申しますと、「自動車事故の衝撃で、身体の細胞が全て分裂して、無数の青年の姿になった」からなのでした。
 斯様にキテレツな内容、なかなかお目にかかれません。

・太田康介「夜が凍れば…」
「雪の降る日、亡くなった両親の代わりに育ててくれた叔父夫妻を訪ねる兄妹。
 途中、兄妹は雪道で何かを踏みつける。
 それは、こうもり傘を持った厄病神(?)であった。
 厄病神は眠りを妨げられたことに怒り、二人を不幸にすると宣言し、消えてしまう。
 兄妹は叔父宅に向かうが、叔父夫妻は兄妹の財産を狙い、毒殺を計画していた。
 しかし、誤って、叔父夫妻は毒入りのコーヒーを飲んで、頓死。
 兄妹は家から逃げ出すが、いつの間にか二人の姿は叔父夫妻にそっくりになっていた。
 そして、叔父宅には、兄妹の死体が…」
 不条理の嵐。
 ラストも悲惨です。
 この作品に出てくる厄病神は、いばら美喜先生の描く「厄病神」に似ているように思いますが、偶然の一致でしょうか?

  「怪談・31」は、前半はいばら美喜先生・小島剛夕先生の傑作、後半は多摩海人先生・太田康介先生の怪作と、うまく(?)バランスがとれております。
「U.Tanaka」氏による、蒼白い女性の顔をしたドラゴン(?)の表紙も、内容とちっとも関係ありませんが、味があります。(中世っぽい城まで描いてるのに、何故に「LOST WORLD」?)
 当時の怪奇マンガの状況の一端を知ることができる、最良のサンプルと言える一冊でしょう。

 備考
 状態悪し。pp3〜6、落丁。表紙に小破れ。背表紙下部に破れ。糸綴じあり。切れ多数。裏に貸し出し表貼り付け。

平成26年8月11日・15日 執筆・ページ作成
平成26年10月13日 加筆

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