「怪談・71」(1964年10月頃?/200円)



 収録作品

・浜慎二「秋も終りの日に…」
「両親を亡くし、親戚に学資を出してもらっている貧乏学生。
 とある夜、彼は見知らぬ老人に呼び止められる。
 喫茶店で話を聞くと、どうも老人は大金持ち。しかも、青年を相続人にしたいという。
 大金を目の前にして、有頂天の青年に、老人は条件として、青年の「未来」と交換を持ちかける…」
 元ネタは、怪談の古典的名作、H・G・ウェルズ「故エルヴシャム氏の話」。(傑作です。ご一読をお勧めします。)
 この短編をもとにして、水木しげる先生も、藤子・F・不二雄先生も描いておりました。(調べると、もっとあるかも。)
 浜慎二先生は、基本的な内容はほぼ一緒ですが、オチを少し捻っております。
 浜慎二「SF怪奇入門」(ひばり書房黒枠)にて再録されております。

・小島剛夕「桐一葉(きりひとは)」
「慶長三年(1598年)の早春。
 老境の豊臣秀吉は、跡継ぎにも恵まれ、「花もこの世のわしがためのもの」と満喫していた。
 が、それに暗い影を差すように、秀吉の奥方の茶々(お市の方の娘)に、お市の方の妄執が度々現われる…(注1)」
 原作は、恐らくですが、坪内逍遥の「桐一葉」(1894年/明治二十七年)でしょう。(未読です。)
 「桐一葉落ちて天下の秋を知る」という言葉がありますが、片桐且元(かたぎりかつもと/1556〜1615/安土桃山・江戸時代の武将)の詠んだ歌とのことです。(注2)

・古賀しんさく「長びく死」
「借金苦から、とある温泉街で一人娘とともに睡眠薬自殺しようとする男。
 ところが、麻薬密輸をしている組の男にそっくりだったため、対立する組に拉致される。
 誤解は解けるものの、その男と瓜二つなのを利用して、向こうの組に潜り込んで、秘密を探るよう依頼される。
 一度は断るものの、大金を積まれれば、イヤとは言われず、その組に潜入。
 正体はばれなかったが、秘密を探っているうちに、その男が仕事から帰ってくる。
 切羽詰り、その男に、自分が自殺するための睡眠薬を飲まして、殺すのだが…」
 絵柄が古臭い感がありますので、サスペンスものを中心にしていた「黒猫」からの再録かもしれません。
 そこまで確認取れていませんので、あしからず。

・サツキ貫太「黒一石」(1964年6月完成)
「ある貧乏絵描きのもとを訪れた、若いながらも一流企業の若手社員の男。
 二人は同じ大学の出で、若手社員の男は妻がお産のため、近所の病院に入院しているので立ち寄ったという。
 絵描きは碁をしようと持ちかけるが、男はもう碁はやめたと言う。
 そして、碁をやめた経緯を語り始めるのだった。
 三年前、男が、目をかけてもらっている上司と共に、とある温泉街を訪れた時のこと。
 泊まった宿に、碁の強い少年がいた。
 なめてかかったのが大間違い、予想外の強さで、男は窮地に追い込まれる。
 上司と少年が湯に行っている隙に、男は黒の石をこっそり盗み取る。
 湯から上がった少年はそのことに気付き、言い張るが、誰も信用しなかった。
 それ以来、少年の姿が思い起こされ、二度と碁を打ちたくないのだった。
 その話を聞いた絵描きは、自分も同じ宿に泊まったことがあると打ち明ける。
 そして、絵描きはそこで石を探し続ける少年の幽霊を見たと言うのだった…」
 タイトルからも想像がつきますように、「石を取った、取らないの挙句、逆上」のアレです。
 が、一ひねりしておりまして、単なる幽霊譚にしておりません。流石です。

 余談ですが、この本の扉絵(上部、左から二番目の画像)を見てください。(浜慎二先生が描いたものと推測)
 恐らく、「別冊宝石 世界怪談傑作集」(1961年9月15日発行)の表紙(右側の画像を参照のこと)を参考にして、描かれたものと思われます。
(まあ、「別冊宝石 世界怪談傑作集」も何かの作品を参考にした可能性もなきにしもあらずですが…。)
 で、この「別冊宝石 世界怪談傑作集」ですが、かなり渋い内容です。
 掲載順に紹介いたしますと、
・アルジャナン・ブラックウッド「秘密礼拝式」
・ロバート・ブロック「子供にはお菓子を」
・E・F・ベンスン「アムワース夫人」
・A・ビアース「考える機械」
・J・S・ル・ファヌ「ハーボットル判事」
・W・W・ジェイコブス「井戸」
・マイクル・アレン「アメリカからきた紳士」
・ブラム・ストーカー「牝猫」
・「座談会 夏の夜の恐怖を語る」(出席者/渡辺啓助・双葉十三郎・星新一)
・モンタギュー・ローズ・ジェイムズ「マグナス伯爵」
・A・J・アラン「怪毛」
・アンソニイ・バウチャー「噛む」
・ジョン・コリア「ビールジーなんているもんか」
・ジェローム・K・ジェローム「ダンシング・パートナー」
・H・G・ウェルズ「故エルヴシャム氏の話」
・H・P・ラブクラフト「冷房装置の悪夢」
・サキ「開いた窓」
・トーマス・バーク「唖妻」(注3)
・ロード・ダンセイニー「遥かなる隣人たち」

 H・G・ウェルズ「故エルヴシャム氏の話」、A・J・アラン「怪毛」(「怪談・73」)、ロバート・ブロック「子供にはお菓子を」(「怪談・98」)をもとにした作品を、浜慎二先生は描いていることから、先生もこの本を読んでいたのかと思いますと、なかなか感慨深いものがあります。
 個人的に、ハヤカワ・ポケット・ミステリーの「幻想と怪奇」や江戸川乱歩・編「世界短編傑作集」が、当時の怪奇マンガ界に与えた影響はかなり大きかったように考えておりますが、「別冊宝石 世界怪談傑作集」もある程度の影響を与えたのではないでしょうか?
 とは言うものの、当時の怪奇マンガ家にどれ程、読書家がいたのかと問われると、答えに窮してしまいます。
 怪奇映画や、テレビの「ミステリー・ゾーン」や「ヒッチコック劇場」の方が影響は大きかったのでしょうが、如何せん、そこまで知識がありませんので、詳しい方の検証を待つことにいたしましょう。

・注1
「お市の方」は織田信長の妹。
 浅井長政のもとに嫁がされるが、その長政を兄の信長が責め滅ぼしてしまう。
 長政は最愛の「お市の方」を死なすに忍びず、信長のもとに、三人の娘とともに送り返す。
 本能寺の変の後、今度は柴田勝家と再婚。
 が、勝家は秀吉に攻められ、自刃。お市の方も運命をともにする。
 …とのことですが、「霊能者・寺尾玲子の新都市伝説 闇の検証 第三集」(ソノラマMOOK/平成11年11月1日第一刷発行)によると、お市の方の霊は浅井長政のもとに帰っていったと書かれております。
 真偽のほどはさっぱりわかりませんが、とりあえずは良かったですね。

・注2
「故事・ことわざ・世界の名言集」(旺文社/1975年12月15日初版・1987年重版発行)p356を参照のこと。

・注3
 ミステリーの古典的名作「オッターモール氏の手」で有名なトマス・バーク(英/1886〜1945)ですが、日本での知名度は低いようです。
 私が読んだのはたった四編でありまして、邦訳はかなり少ないのではないでしょうか?(「がらんどうの男」は未読。)
「ブルームズベリーの惨劇」(EQMM−エレノア・サリヴァン編「世界ベスト・ミステリー50選」(光文社文庫/1994年3月20日初版一刷発行)に収録)
「金色の小鬼」(G・K・チェスタトン編「探偵小説の世紀・上」(創元推理文庫/1983年12月2日初版)に収録)
 この「唖妻」も何らかの単行本に収録されているのかどうかよくわかりません。
 一読して受けた印象では、楳図かずお先生の「おろち」のエピソードの中での傑作「骨」を彷彿いたしました。
 まさか影響を与えたとか…?
 あと、古賀新一先生の「エコエコアザラク」で、そのまんま引用している回があります。

・備考
 ビニールカバー貼り付け。カバー貼り付け。ホッチキスによる綴じあり。pp13〜29までシミ多数(浜作品)、また、pp37・38(小島作品)にも大きなシミあり。

2014年11月3〜5日 執筆・ページ作成
2015年2月13日 改稿
2016年3月21日 加筆訂正
2017年6月27日 加筆訂正
2017年10月16日 加筆訂正

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