小島剛夕「怪談雪・月・花」(220円)
・「花の章 匂いの君」
「舞台は加賀(金沢)あたり。
典医を目指すも、金力と門閥の壁に阻まれ、早春の山での死を決意した青年。
彼は偶然に、山を越えようとする侍の一行と行動を共にすることとなる。
侍達は、この国境定まらぬ地を自国の領地とするために、山を越えたところにある部落を自領に組み入れるという密命を帯びていた。
彼らの首領、貴田文乃進は落伍するものは情け容赦なく見捨てていくが、青年医は彼の暗い瞳の奥にかすかに人間味が残っているのに興味を惹かれる。
一行はどうにか山奥の部落に到着し、自国への編入手続きに大わらわ。
一方、青年医も多くの病人の診察に追われ、死ぬ気であったことなどすっかり忘れていた。
ある日、青年医は若い娘から診察を頼まれる。
青年医が案内されたところは、里から離れたところにある、流刑人用の粗末な家であった。
その家には静という名の非常に美しい女性が住んでおり、彼女にも家にも何らかの香しい匂いに満ちていた。
静はひどく胸を病んでいたが、自分の運命を静かに受け入れているように見えた。
しかし、青年医は彼女の瞳に中に深い深い情熱のきらめきを垣間見る。
静の侍女によると、静は想い人がいて、それは山下の城の侍だというのだが…」
・「月の章 蒼い影法師」
「大牟田慎吾は、父親の仇討ちのために、七年も旅を続けてきたが、もううんざり。
自分の青春を無駄にしたくないと、武士道を貫こうとする兄と袂を分かつ。
そして、一年、仕官を目指しながらも、現実の壁に阻まれ、慎吾は無頼浪人の仲間入りをしていた。
十五夜の夜、縄張り争いの助太刀を頼まれ、慎吾は相手方の用心棒を斬る。
だが、その用心棒こそが、大牟田兄弟が長年探し歩いて来た、父親の仇であった。
そのことが知られると、皆、掌を返したように、慎吾を称賛し、ちやほやする。
仇討ちのために一人旅を続けてきた兄のことを思うと、慎吾は故郷には帰らず、ずっと江戸にいたい。
しかし、自分が想いを寄せていた娘が兄を慕っていたことを知り、彼は故郷に戻るのだが…」
・「雪に棲む鬼」
「多恵は雪山で遭難しかけたところを見知らぬ侍に助けられる。
山奉行である父親、田所平左ヱ門は公用で隣の藩に出かけたが、数日前から行方不明となり、多恵は父親の消息を尋ねているうちに、連れの者とはぐれてしまったのであった。
侍は城下の屋敷まで多恵を送り、名も告げずに姿を消す。
屋敷の前には、長身で色の蒼白な、白井紋十郎が多恵を待っていた。
彼は、多恵の父親に婚儀を断られていたにも関わらず、父親の行方不明をいいことに、性懲りもなく結婚を申し込んでくる。
多恵は蛇蝎の如く、白井紋十郎を嫌っており、先程の侍の面影もあり、はっきりと求婚をはねつける。
しかし、白井紋十郎も生半可なことで多恵をあきらめるような男でなかった。
ある夜、多恵の弟、栄之助は、酔った挙句の諍いで、父親の部下、九頭源六を斬ってしまう。
その現場を白井紋十郎に押さえられた栄之助は、紋十郎からある提案を受ける。
このことを黙っておく代わりに、姉の多恵との縁談を取り持つというものであった。
父親の行方がわからない今、栄之助は家長であり、白井紋十郎の言いなりになるしかなく、多恵は弟の様子を訝る。
九頭源六の死体が発見され、多恵は真相を白井紋十郎から教えられ、結婚かお家断絶かの最後通告を受ける。
どうしても白井紋十郎との結婚がイヤな多恵は、弟と共にその地を去ろうとするのだが…」
「怪談」と銘打ってはありますが、「ちょっと文芸的にひねりのきいたものをえらんだつもり」(p133)とあるように、「怪談」とは言いづらいです。
まあ、「幻想」「不条理」「ミステリー/サスペンス」の要素は多少なりとも含まれておりますので、広義での「怪しい話」の範疇には入るのでしょうが、ヒット・シリーズ「怪談」「オール怪談」とは全くノリが違います。
でも、やっぱり小島剛夕先生の作品でありますから、非常に水準の高い作品ぞろいなのでありまして、読み応えはバッチリあります。
ちなみに、巻末には、小島剛夕先生が難波健二先生、江波ジョージ先生と共に、劇漫画研究所「あにまるプロ」を創設した旨、記事があります。
ちっとも噂を聞いたことがありませんので、あにまるプロがどのような活動をしたかご存知の方、いらっしゃいませんか?
・備考
ビニールカバー貼り付け。糸綴じあり。前の表紙の裏にボールペンによる落書きあり。後ろの遊び紙に貸出票の剥がし痕と蔵書印あり。小口に蔵書印あり。下側に水濡れの痕あり。pp14・15、コマ内でくっついて、剥げた痕あり。シミ多数。
2017年6月27日 ページ作成・執筆