諸星大二郎「キョウコのキョウは恐怖の恐」(2004年11月20日第一刷発行)

 収録作品

・「狂犬」(「小説現代増刊メフィスト」2003年1月号)
「アグリセンターの稲本は、病気になった、試験場分室の木嶋室長に代わりに、旧農業技術試験場に行く。
 用件は、書類とサンプルを届けることだけだったが、帰る時、彼はあやまって地下へと降りてしまう。
 ついでがてら歩いてみると、廊下の突き当りに奇妙な部屋があった。
 そこはコンクリートの舗装がされておらず、真ん中あたりに、石造りの祠がある。
 彼が祠の中を覗こうとした時、頭頂部に肘をかけていたため、祠の頭頂部が落ちてしまう。
 どうもはじめから割れていたようで、彼は祠を元に戻し、お賽銭として三円、お供えして、その場を去る。
 その後、研究室の室員に階段の場所を聞き、地上へと出るが、そこは裏口で、敷地内はどこも荒廃していた。
 特に、彼が踏み込んだ畑は、腐った野菜ばかりで、痩せこけた黒い犬がふらふらとさまよっている。
 翌日、彼は、持ち帰るはずの資料を忘れたとのことで、再び旧農業技術試験場に向かう。
 バスの中で、彼はキョウコ(凶子)という変わった女性に話しかけられる。
 キョウコは旧農業技術試験場に興味があるらしく、彼と一緒にそこを訪れる。
 彼は用事はすぐ済むと思っていたが、キョウコの「(今日は)別のものが見える日」という言葉通り、奇怪な体験を次々とすることとなる…」

・「秘仏」(「COMICアクションキャラクター増刊 諸星大二郎大特集」1990年4月30日号)
「ある青年が、窪川と、その連れらしい恐子の三人で、山奥の小さな寺を訪れる。
 目的は、年に一回の「御開帳」を見学することであった。
 「御開帳」は非公開らしかったが、青年と恐子は墓場に隠れて、山門が閉じた後、境内に戻る。
 境内の隅には、幅3、4メートつの「四角い石の囲い」があり、中には水が張ってある。
 その囲いが秘儀の中心らしく、境内に集まる人々は水槽の周りに群がっていた。
 僧達は、境内の真ん中にに積み上げた物を、少しずつ水槽に入れていく。
 恐子とも窪川ともはぐれた青年は、一人の少女と出会う。
 彼女はお寺の娘らしく、彼女と共に、彼は「御開帳」に参加することとなる。
 「御開帳」の秘密とは…?」

・「貘」(「ヤングジャンプ増刊ミラージュ)1992年1月5日号)
「狂子は、市民公園内のミニ動物園に飼われているバクを忌み嫌っていた。
 彼女によると、「檻の中で野生のバクらしさをすべて剥ぎ取られた時、何かほかのものになった」という。
 そのバクがミニ動物園から消え、一時、狂子は憔悴するが、仕事で人と会った時、バクの行方を知る。
 バブル成金のオヤジの建てた私立博物館にバクが集められているらしい。
 しかも、狂子は、その話を聞く前に、例のオヤジを夢で見ていた。
 狂子の彼氏は、彼女に連れられて、その市立博物館を訪れる。
 しかし、そこは展示物はほとんど撤去され、廃墟同然であった。
 中を進んでいるうちに、入り口に展示されていた、石膏で頭を覆われたバクが彼らの方に向かってくる。
 彼は階上へと向かうのだが、そこで目にしたものとは…」

・「鶏小屋のある家」(「小説現代増刊メフィスト」2002年1月号)
「山内六蔵はリストラ候補の中年サラリーマン。妻はいるが、子供はいない。
 社宅を追い出された彼は、庭付きの一戸建てを借りて、移る。
 庭付と言っても、荒れ放題の空き地で、その向こうのブロック塀沿いには細長いバラックのようなものがあった。
 それはもう使われなくなった鶏小屋で、朽ち果てる寸前でという代物。
 だが、住み始めて、自分の借家が心霊スポット扱いされていることに気付く。
 更に、山内さんが一人の時、変な女が訪ねて来て、鶏を飼っているかどうか聞いてくる。
 話を聞くと、彼女のアパートの部屋の前に卵が置いてあり、もしやと思って…とのことらしい。
 おかしなことはそれだけにとどまらず、ある日、山内さんが鶏小屋に行ってみると、コンクリートの床の上に卵があった。
 数日後も同じ所に卵があり、同じことが何度も繰り返されるうちに、鶏小屋と卵が強迫観念になってしまう。
 台風が来る日、そのドサクサに紛れて、山内さんは鶏小屋を壊そうとするのだが…」

・「濁流」(「小説現代増刊メフィスト」2002年9月号)
「須田は電波研究所を定年退職した男性。
 雨の降る夕方、彼が一人でいると、会社の後輩だった浅井が訪ねてくる。
 雨がどんどんひどくなり、居間の電気も暗い中、二人は碁を打ちながら、世間話をする。
 陰鬱な雰囲気や浅井の不自然な態度があり、須田は過去の嫌な記憶について語る。
 息子が犬を飼うのを許さなかったこと、捨て猫を持ち帰るが、回虫を吐いたことが原因でまた捨てたこと、そして、犬を川に投げ込んで殺す浮浪者のこと…。
 雨の様子が気になり、須田が縁側に出ると、濁流が庭まで打ち寄せていた。
 彼がそこに見たものとは…?」

 諸星大二郎先生の短編小説をまとめた最初の単行本です。
 バラエティ豊かな幻想的な作品集で、「濁流」「鶏小屋のある家」以外、「キョウコ」(注1)という女性が登場しております。
 漫画と小説では表現方法が異なると思うのですが、そんな壁、諸星先生にとってはあってないようなもので、そつのない文章で怪異を淡々と、でも、鮮烈に述べていきます。
 恐るべき奇想を、派手さはなくとも、鉄壁の「説得力」を持って描写する豪腕…小説でも、その一端を感じられるのではないでしょうか?
 どの作品も優れていると思いますが、力作「狂犬」(注2)と重要作「秘仏」は白眉だと思います。
 あと、ちょっぴり愚痴っぽいですが、諸星先生の挿絵がもっとあったらなあ…。

・注1
 この「キョウコ」さんは、諸星流サバイバル・ホラー「BOX」にて、重要なキャラで登場します。
 あと、「秘仏」の少女も…。(ネタばれ防止のため、このぐらいで。)

・注2
 この作品は「未来歳時記 バイオの黙示録」のベースになったかも?

2021年8月13・31日/9月28・30日 ページ作成・執筆

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