五島慎太郎「ドラキュラ」(1980年2月10日発行/黒69)

「日本人を父、英国人を母に持つ、美奈・ハーカー。
 両親を亡くした彼女は、英国に住む母方の叔父ジョナサン・ハーカーのもとへ横浜から船で向かう。
 だが、船旅の途中、船上で殺人事件が続けて起こる。
 被害者は、身体から一滴残らず血を失っていた。
 嵐の夜、夜中に美奈が目覚めると、船の乗員は皆殺し。
 バルナから乗った男が、美奈に牙を剥いて襲いかかってきて、美奈は海に転落してしまう。
 翌日、浜辺に打ち上げられた美奈を、アーサー・ホルムウッドとその恋人ルーシー・ウエステランが発見する。
 美奈はアーサーの屋敷で介護を受け、意識を取り戻す。
 船の難破を知った美奈は、船上で起こったことを話すが、誰も信じてはくれない。
 一方、アーサーは美奈に去年溺死した妹の面影を見出だし、手厚く世話をするが、ルーシーはアーサーの愛情が美奈に移ったと嫉妬する。
 悲嘆に暮れるルーシーは部屋で泣き疲れ、気が付くと、もう夜中。
 空腹を覚え、台所に向かおうとすると、廊下をコウモリが飛び回っている。
 そして、ルーシーの目の前に、船上で美奈を襲ったドラキュラが姿を現すのだった。
 ドラキュラはルーシーを吸血鬼に変え、彼女の嫉妬を利用して、美奈を狙う…」

 ひばり書房黒枠期の「吸血ドラキュラ」をヒバリ・ヒット・コミックスにて再刊したものです。
 巻末にも書いておりますが、ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」をアレンジしたマンガです。(注1)
 正直言いまして、出来は芳しくないと思います。
 とにもかくにも、ドラキュラ(伯爵…の位ではなさそう)に「ダンディズム」のかけらもありゃしません。
 まあ、映画でベラ・ルゴシやクリストファー・リーの演じたドラキュラ伯爵は、劇や映画にする際に脚色されたもので、ブラム・ストーカーの原作(未読)とはまた違うと聞いておりますので、そこは目をつぶりましょう。
 でもねぇ、このマンガに出てくるドラキュラって、非常に下品。しわしわな唇をめくり上げて、歯を剥き出し過ぎです。
 んで、セコい!!
 ストーリー後半、ヒロインがドラキュラ城に馬車で案内されるのですが、その馬車の御者がドラキュラ本人だったというシーンはズッコケました。
 吸血鬼を扱ったマンガは数多くありますが、ここまでヘボヘボなドラキュラは(ギャグマンガに出てくるものを除いて)あまりないと断言します。(注2)
 と、あれこれ書きましたが、一つだけ非常に味わい深いシーンがあります。
 吸血鬼になったルーシーがヒロインを襲う場面なのですが、凶悪なツラしてヒロインに迫っている最中、恋人のアーサーが部屋に入ってきます。
 突然のことに、照れ笑い(?)でごまかして、部屋から逃げるように去るのですが、このシーン、なんかかわいくありませんか?

 ありそうでなかった描写ではないか…愚行している次第。
 この一点だけで、この作品は、私の記憶の片隅を占めるに至ったのであります。

・注1
 五島慎太郎先生は、ひばり書房の黒枠で、西洋の怪奇映画に出てくるモンスター(狼男、半魚人、ミイラ男、フランケンシュタイン、悪魔、等)を題材にしたマンガを多く描いておられます。(単行本を全部、持ってはいませんが…。)
 現在のようにビデオやDVDなんかなかった時代、映画館に怪奇映画を観に連れていってもらえるには「おチビ」だった子供達には、児童雑誌の特集でスチール写真しか見ることのできなかったような、外国の怪奇映画を題材にしたマンガは、新鮮に感じられたのではないでしょうか?
 あくまでも、私の推測でしかありませんが…。

・注2
 ただし、私が知らないだけで、「世の中には知らないことの方が多い」ことを肝に銘じておかなくてはいけません。
 ハマー・フィルムの「吸血鬼ドラキュラ」(日本公開1958年)が、日本の怪奇マンガに与えた影響は大きいものがありました。
 貸本マンガの中に、吸血鬼マンガの隠れた傑作・珍作・駄作が山ほど埋もれていると思うのですが、私の手にはあまります。

2016年1月9日 ページ作成・執筆
2019年2月6日 加筆訂正

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