高階良子「吸血鬼殺人事件」(2009年10月20日初版発行)

 収録作品

・「遠い日の殺人事件」(「ミステリーボニータ」2009年2月号掲載)
「窪田香澄は五歳の時には両親をなくし、資産家の老女に引き取られる。
 十歳の時に、養子縁組をするが、その直後、老女は何者かに殺害される。
 犯人の最有力候補とされたのは孫の窪田隆雄であり、香澄の目撃証言が決定打となる。
 彼は無罪を主張し、護送中に逃亡、いまだ捕まっていない。
 事件から七年経った今も、香澄は事件のトラウマに悩まされていた。
 彼女は当時から隆雄のことが大好きで、その想いは色褪せてはいなかったが、彼に殺されそうになった記憶に苛まされる。
 ある日、彼女は、警察から、逃亡中の隆雄が彼女の近辺にいるという連絡を受ける。
 その翌日、学校から帰宅したところを、隆雄は彼女が一人で住む家に押し入ってくる。
 身も心も荒みきっていた隆雄に心を痛める香澄。
 隆雄は彼女に「あの時のことを思い出」すよう要求して、香澄のもとを去る。
 あるきっかけから、彼女は当時の記憶を取り戻し、ある賭けに打って出る…」

・「吸血鬼殺人事件」(「ミステリーボニータ」2009年5月号掲載)
「ある家の地下室での女子高生、鮫島香子が殺害される。
 遺体は銀のナイフで心臓を一突きにされていたが、検死解剖の結果、不審な点が幾つも出てくる。
 犯人は、被害者の友人の神林樹里であり、現在、逃亡中。
 彼女は、細菌の研究者である奥田医師のもとに匿われていた。
 彼女は奥田医師に香子が吸血鬼となり、自分も彼女に噛まれたと話す。
 奥田医師は彼女の話を聴いて、自分だけが彼女を治せると、治療を施す。
 だが、これは奥田医師の仕掛けた、巧妙な罠であった…」

・「花の迷路殺人事件」(「ミステリーボニータ」2009年9月号掲載)
「夏、房総のひまわりの迷路。
 松本夏季が十歳の頃、彼女がはぐれているうちに、唯一の肉親である父親が射殺される。
 施設に入っている間、夏季は犯人への憎悪を燃やし続け、屈折する。
 高校に入れる年になった時、彼女に援助者が現れ、名門高校に通うこととなる。
 また、一人暮らしのための部屋も用意され、自由に使える金も通帳に振り込まれていた。
 援助者の名は海老原というが、名前以外は一切わからない。
 経済的な余裕が生まれたお陰で、夏季は父親が殺された、ひまわりの迷路を訪れる。
 そこで、夏季は日向葵(注1)と名乗る青年と出会う。
 彼に父親と同じ温もりを感じ、彼女は彼に心を開くことができる。
 彼と何度も接するうちに、彼が本当は織田竜二という名で、彼女の援助者であることを知る。
 だが、織田竜二には黒い噂もあった。
 夏季は彼が父親を殺した犯人ではないかと疑い始める…」

 良作揃いだと思いますが、個人的な一押しは「吸血鬼殺人事件」。
 タイトルからミステリーかと思いきや、嬉しいじゃありませんか、実は強烈な「マッド・サイエンティスト」ものです。
 「女性の美をミイラとして残すことに執着する」医師と、彼によって徐々にミイラにされる少女の恐怖を描いており、私のツボにめっちゃはまりました。(耳タコでしょうが、マッド・サイエンティスト、好きなんです。)
 この手の話は、古くは、さがみゆき先生の「神秘の扉がひらくとき」等、綿々と描き続けられておりますが、その中でも、かなりの出来だと思います。
 ただ、あくまでも「怪奇マンガ」として読むべきであって、「ミステリー」として考えたら、いろいろと問題が…。

・注1
 「日向葵」と言えば、望月あきら先生が絵を担当した傑作「カリュウド」(秋田書店/チャンピオン・コミックス)の原作者の名前であります。
 一体全体、誰なのか、謎です。(個人的には、変名だと考えております。)

2017年8月4日 ページ作成・執筆

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