亜月亮「汝、隣人を×せよ。B」(2019年9月12日第1刷発行)

 20XX年。
 凶悪・多様化する犯罪の抑止とそれらから弱者を守るため、「一生一殺法」が制定される。
 これは、自らの人生と人権を守るため、「一生涯につき一人だけ殺人を許可される権利」(殺益権)を保証するものであった。
 そして、「殺益」(この法律では殺人をこう呼ぶ)を司るのは政府から委託された民間団体である「殺益執行委員会」。
 殺益執行委員会には独自の機動性と超法規的措置が認められており、殺益申請の受付、調査、殺益執行を行っている。
 中でも関東支部13班(未来・辰之助・圭斗)はクセモノ揃い。
 彼らが扱う事案とは…?

・「murder.10」(「JOURすてきな主婦たち」2019年3月号)
「窪田宏希(24歳)は会社で過労自殺をする。
 契約社員の彼はウェブディレクターを任され、その激務に心を壊されてしまったのであった。
 宏希の母は息子の死に納得ができないが、殺益権は「会社」のような組織には行使ができない。
 そこで息子の死に関連のある人物を三人絞る。
 秋本弘美(42歳)〜制作部副部長。仕事と責任を押し付け、手柄だけを持っていくタイプ。
 松田洋平(34歳)〜プログラマー。仕事はできないくせに、自分の非は認めないタイプ。
 菊地和久(32歳)〜営業部。仕事をむちゃぶりして、さっさとトンズラするタイプ。
 殺益候補となった三人は宏希の母の前で命を賭けたプログラミング・ゲームをすることとなる…」

・「murder.11」(「JOURすてきな主婦たち」2019年4月号)
「小学五年生の池本佳世はが校舎から飛び降り自殺をする。
 彼女は熊田麗奈というクラスメートにいじめられていたが、麗奈は佳世の葬式に姿を現わさない。
 佳世の両親が麗奈の両親に詰め寄ると、麗奈の父親は開き直り、名誉棄損で訴えると脅迫まがいの言葉まで投げつける。
 佳世の父親は涙を流しながら、麗奈の父親に麗奈を殺益すると宣言。
 そこで、熊田の両親は麗奈が12歳になる前に海外への移住を決める。
 その頃、水面下で殺益執行委員会が調査を進めていた…」

・「murder.12」(「JOURすてきな主婦たち」2019年6月号)(注1)
「坂本希美は隆司という夫と拓実という男児に恵まれ、平凡ながら幸せな日々を送っていた。
 だが、夫がSNSで投稿した画像により、その幸せは危機に瀕する。
 その画像を見た昔の知り合いのミナが彼女に会いに来て、その愛人のハルキに居場所を知られてしまったのである。
 ハルキは希美の秘密を知っていた。  希美の母親は金銭感覚がマヒしており、それにより希美は何度も苦渋を味わわされていた。
 借金を返すために、会社の後、夜の仕事を始めるが、その時にミナとハルキと知り合う。
 また、ハルキには彼女が実の母を殺益するところを目撃されていた。
 ハルキは希美を脅し、どんどん金を搾り取っていく。
 希美は既に殺益権を使っていたため、追い詰められ…」

・「murder.13」(「JOURすてきな主婦たち」2019年7月号)
「柏原昌は××区駅前通り殺傷事件の犯人。
 彼は樋口咲江というOLに一方的な好意を抱き、ストーカー行為を繰り返した挙句、駅前通りで彼女が恋人と一緒にいるのに激高し、二人に襲いかかり、死者二名、重傷者二名という惨事を引き起こす。
 だが、精神鑑定の結果、柏原は死刑を免れ、懲役12年の刑となる。
 これに目を付けた雑誌編集者の駒井俊夫は柏原に手記の出版を勧め、「夢遊の殺人者」は大ベストセラーとなる。
 更に、駒井は続編を企画するが、それは柏原による樋口咲江の殺益申請がテーマであった。
 一方、樋口咲江も柏原への殺益を申請する。
 しかし、一生一殺法よりも刑法が優先されるため、服役中の犯罪者に殺益執行はできない。
 ある日、駒井は殺益申請が受理されたと刑務所に呼び出されるのだが…」

・「Last murder」(「JOURすてきな主婦たち」2019年8月号)
「様々な議論を呼びながらも、一生一殺法は国民の間に浸透していく。
 殺益執行委員会のホームページでは殺益対象者を検索し、それを申請することも可能になっており、一万人の申請者がいれば大臣、三万人の申請者がいれば総理大臣だって殺益できる。
 大学生の滝谷裕二は年金運用に失敗した大臣を殺益させるべく、ネットで煽りまくるのだが…」

 そろそろテーマが作者の中でなじんできたのか、B巻は読みごたえのあるエピソード揃いです!!
 特に、電※の過労自殺にインスパイアされたと思しき「murder.10」、元少年A「絶歌」が念頭にあったのか(?)「murder.13」はなかなか凝った展開で、読んで面白いだけでなく、いろいろと考えさせられる内容です。
 こんな感じで内容が波に乗ってきたのですが、残念なことに単行本はこれが最終巻です。
 ただ、電子版では続きが出ており、殺益執行委員会の更なる活躍(?)が読めますので、興味のある方はチェックしてみてください。

・注1
 「汝、隣人を×せよ。」を読んでいる間、ずっと既視感につきまとわれていたのですが、「murder.12」を読んだ時に「スマホでバズった怖い話」に収録されている「一殺条例」だとふと思い至りました。
 これ、「汝、隣人を×せよ。」の設定と類似しているんですけど、大丈夫なのでしょうか…。

2025年2月14日 ページ作成・執筆

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