「オール怪談・7」(150円/1960年頃?)



 収録作品

・太田康介「骸(むくろ)」
「ある青年が、人里離れた、湖のそばの屋敷にやって来る。
 彼はお尋ね者で、身を隠す場所を探していた。
 空き家かと思いきや、中には、魚の入った水槽が幾つもあり、部屋の隅には老科学者の死体があった。
 また、ある水槽の中には、一体分の人骨が沈んでいる。
 二階で物音がするので、彼がドアを蹴破ると、一人の少女が震えていた。
 男は屋敷に居座り、翌日、科学者の死体を埋める。
 その最中、少女の悲鳴が聞こえ、屋敷に戻ると、テーブルの上に、骨だけになった猫の死体がある。
 その間に、埋めたはずの死体が消え、少女も行方をくらます。
 数日後、彼は、湖に浮かぶヨットを目にする。
 ヨットまで泳いでいくと、少女が科学者の死体を魚に食べさせていた。
 科学者は、肉食の魚を研究していたらしいのだが…」

・清水良「妖異人形首」
「小塚原刑場の獄門台にさらされる、盲目白髪の老祈祷女の首。
 この首が、両目をくり抜かれた人形の首をくわえ、「高富…浦風…盲目呪法」と繰り返し呪いの言葉を呟いているという噂が広まる。
 高富は美濃一万石、本庄宮内少輔の城下町であり、人形の首は本庄屋敷の側妾、浦風にそっくりと言われる。
 その噂が浦風の耳に入って間もなく、彼女の前に、美鈴の幽霊が度々現れるようになる。
 浦風は、美鈴の可愛さに嫉妬し、あらぬ嫌疑をかけて折檻を加え、美鈴は盲目になった挙句、死んでしまったのであった。
 浦風は、美鈴の呪いを恐れ、彼女に許しを乞うのだが…」

・多摩海人「自分の穴の中で」
「ある会社の社長には、双子の弟がいたが、兄とは対照的なダメ人間であった。
 兄の方は右の額にアザが、一方の、弟は左の額にアザがついており、皆、それで二人を区別する。
 ある夜、飲んだくれた弟は、兄から借金を断られたことに逆上し、花瓶で兄の頭を殴りつける。
 兄は、脳内出血をしたから、ナイフで頭を切り開くよう頼んでいるうちに死亡。
 弟は兄を壁に塗り込み、医者で額のアザを兄と同じ場所につける。
 こうして、彼は兄に代わって社長の椅子に座るが、帰宅すると、兄を塗り込んだ壁から一筋の血が流れ出ている。
 彼は何度も壁を塗り直すのだが…」



・鹿野はるお「壁画の天女」
「青年画家、秋山秀嶺は、諸国修行の旅から故郷に帰った際、西光寺の壁画の天女に心を奪われる。
 彼は、天女の絵を描くために、毎日寺に足を運ぶが、自分では気が付かないうちに、天女に恋をしていた。
 寺の坊主からそれをたしなめられた帰り道、、彼は、天女そっくりの娘と出会う。
 彼女は、寺の壁画を描いた絵師の娘で、二人はそのまま、江戸へ駆け落ちする。
 一方、寺では、壁画から天女の姿が消え、大騒ぎ。
 五年後、秀嶺と娘の間には子供も産まれ、秀嶺は画家として成功していた。
 しかし、老中のために描いた絵を、娘に届けさせたことから、悲劇が起こる…」

・山下よしお「ゆりかごの唄」
「史郎は浮浪児であったが、頭の良さを買われ、若くして稲葉会の幹部となる。
 ある日、彼は、ボスを嗅ぎまわっていた刑事の神津を信州の山奥にある小屋に閉じ込め、爆殺する。
 その時、史郎の近くで、若い娘が、歌を歌いながら、現れる。
 犯行を目撃されたかと、彼女を捜すも、姿はどこにもない。
 東京に戻ってから、史郎は、ある娘と知り合いになる。
 彼女は、爆殺された刑事、神津の妹、順子であった。
 ある夜、金庫破りに失敗し、傷を負った彼を、順子は、信州の山の湯に連れて行くのだが…。
 彼の周辺で度々現れる菊子という女の正体は…?」

・古谷あきら「かえって来た男」
「嵐の夜、浩一という青年が家に戻って来る。
 彼は、東京で働くために、勘当同様に家を出たのであった。
 しかし、家族は彼のことを無視し、全く相手にしてくれない。
 頭に来て、家をとび出した彼は、バーに入るも、ここでも同様に徹底して無視される。
 むしゃくしゃしながら、夜道を歩いていると、彼の後をつける者がある。
 それは、病死したはずの友人であった…」

 今ではすっかり忘れ去られたB級作家の作品が六編、収められております。
 とは言え、小島剛夕先生や古賀新一先生、浜慎二先生といった看板作家の作品よりも、琴線に触れるものがあったりしますので、侮ることはできません。
 個人的には、多摩海人先生、太田康介先生、鹿野はるお先生の作品は、今でも十分に鑑賞に堪えると考えております。
 多摩海人先生の「自分の穴の中で」は相変わらず「カックン」な内容で、多摩海人ワールドは唯一無二だと唸らされます。
 また、太田康介先生の「骸」は、もしかしたら、若林哲弘先生の大傑作「眠る霧」(「怪奇貸本収蔵館第二号 若林哲弘・編」収録)よりも先に、魚女を描いているのでは?
 鹿野はるお先生はベテランらしい質の高い作品で、このクセのある絵も実に味があると思います。

・備考
 状態、猛烈に悪し。カバー、ボロボロ(剥落しまくり)。糸綴じあり。前後の見開きのノドに紙で補強。裂け、欠損、シミ、汚れ、あまりに多すぎて省略。pp5・6、pp15・16、pp23・24、pp37・38、pp43・44、pp49・50、pp79・80、コマにかかる欠損。後ろの遊び紙に貸出票の剥がし痕あり。

2019年12月19日 執筆・ページ作成

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