「オール怪談・52」(1964年6月頃?/200円)



 収録作品

・いばら美喜「奴隷」
「受験勉強にうんざりして、夜の公園で時間を潰す青年。
 青年の座っているベンチの横に、綺麗な女性が腰をかける。
 言葉を交わし、青年は女性の家に寄ることになる。
 そこは廃墟だったが、地下室への入り口があり、地下は非常に立派な部屋になっていた。
 豪華な応対を最初は受けるものの、明日から奴隷だと、女性に告げられる。
 そして、青年は監禁の身となるが、どうにか脱出する方法を探る…」
 この作品もいばら美喜先生の女性不信の表れなのでありましょうか?
 この美人の正体は○○○○○なのであります。
 この発展系(?)が、「ミステリーマガジンシリーズS 面よごし」…かも…?
「オール怪談」(ひばり書房黒枠)にて再録。

・小島剛夕「居待月」
「天下泰平の世。
 卓越した腕を持ちながら、道場破りを退散させることで生活の糧を稼ぐ、中年の浪人。
 彼には病に伏せる娘がいた。
 ある日、娘の婚約者である青年から、密命を終え、七年ぶりに帰ってくるとの手紙がくる。
 貧乏暮らし故、娘の薬代も、晴れ着、花嫁道具さえ買う余裕がない。
 何とか金を手に入れようとする浪人だが、八方ふさがりで思い悩む。
 そこへ一人の男を切るという話が舞い込む。
 武士道に背くことは今迄決してしなかったが、娘の幸せのため、背に腹はかえられず…」
「居待ちの月」とは「陰暦十八日の月」(角川新国語辞典)とのことです。

・江波譲二「女執」
「重役の娘と新婚旅行に出かける青年。
 幸せいっぱいの二人だが、花嫁が熱川温泉に行こうと言い出したことで、青年の顔が曇る。
 青年はそこで、それまで付き合っていた女性を、重役の娘との結婚に邪魔になった為、殺害し、遺体を重りをつけ、海に沈めたのだった。
 何者かに導かれるかのように、殺した女と泊まった宿、同じ部屋、そして、花嫁が死体を遺棄した見晴台に散歩に行こうと言い出し、青年はノイローゼ気味になっていく…」
 数多とある、ドライサー『アメリカの悲劇』ちっくな作品です。
 でも、よくよく考えてみれば、日本にはもっと昔に、似たような物語がありました。そして、こちらの方が遥かに陰惨。
 そう、ご存知、『東海道四谷怪談』!!
 現代風な装いをいくら凝らしても、「女執」を焦点に据えたところに、いまだ根強い『東海道四谷怪談』の影響を感じてしまいます。

・サツキ貫太「罠」(1964年5月に完成?)
「奥の奥の山林地帯。
 森の境界を巡って、先祖代々争っている、本家と分家があった。
 決着をつけるための喧嘩(でいり)に、本家のボスは、東京で殺し屋をしている甥を呼び寄せる。
 その甥は、ここを内密に捜査に来た刑事だった。
 しかし、それを以前から見抜いた本家と分家のボスは刑事は殺害。
 その時、「よそ者の血で山を汚してはいけない」という掟を破った罰が二人に下されたのだった…」
 元ネタは、サキ「おせっかい」(「サキ短編集」(中村能三・訳/新潮文庫/昭和33年2月15日発行・昭和50年8月30日16刷)収録)。(注1)
 唐沢俊一氏による復刻もありますので、比較的容易に読めます。
 最初に読んだ時には、単なるパクリと思って、大して感心しなかったのですが、改めて読むと、う〜ん…なかなかヘン…。
 名作短編に、ギャングものだけでなく、日本的な因果応報の要素を叩き込んで、アレンジ加減の明後日方向なところが心に染み入ります。
 んにしても、ギャングと日本的なものって、つくづく「水と油」であると思います。
 それを力技で攪拌しまくって、どうにかこうにか作品に仕立て上げていた、貸本マンガ家って凄いですよね…。

・注1
 原題は『Interlopers』。
「ザ・ベスト・オブ・サキU」(中村秀男・訳/ちくま文庫/1988年5月31日発行)では、「邪魔立てする者」となっております。
 なかなか内容にしっくりくるような、タイトルの訳は難しいですね。

・備考
 ホッチキスによる綴じあり。また、ホッチキスに錆。見開き、遊び紙と貼り付け、それによる破れあり。pp66・67に張り付きによる、小さな破れあり。小さな切れ、しみ、ある程度あり。

平成26年8月17〜20日 ページ作成・執筆

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