「オール怪談・80」(220円)



 収録作品

・いばら美喜「リュックの娘」
「夜、帰りの電車を待つ青年。
 そこへリュックサックを背負った娘が通りすがりに「私を殺して」と青年に言うと、そのまま歩み去る。
 このことが気になった青年は娘のあとをつける。
 娘はある寺へと入っていくが、青年はそこの住職に寺から出ていくよう命令される。
 このまま引き下がるわけにはいかず、物陰から窺っていると、人買いらしき男が現れ、住職から娘を買う手筈を整えていた。
 娘は激しく抵抗し、その場へ青年が踏み込む。
 娘のリュックの中身とは…?」
 ネタバレですが、いばら美喜版「バスケットケース」と、実はかなり無理があるのですが、あえて断言しちゃいます。
 日本で撮影されたアメリカ映画「双頭の殺人鬼」(未見/注1)が影響を与えているのかも。(注1)
 「オール怪談・39」からの再録ですが、こちらは最後のページが一枚、省略されております。

・小島剛夕「不忍池(しのばずのいけ)」
「夏。毎朝、不忍池に通ってくる乙女。
 開く蓮の花の音を聞きつつ、彼女の友達は池に一匹でいる白い水鳥のみ。
 彼女は医学所に通う青年を知り合い、彼のことが心から離れなくなる。
 彼女は、因業な金貸しとして忌み嫌われている男の養女であった。
 金貸しの男は彼女の清らかさに心を打たれ、貧しい両親の前に大金を積んで、養女にしたのである。
 が、彼女にしてみれば、所詮、駕籠の中の小鳥。
 そして、彼女の青年への思慕が金貸しの男に露見した時、彼女は飛び立つ決心をするが…」
 「怪談・54」(貸本/つばめ出版)からの再録。タイトルページをご覧になりたい方はそちらへどうぞ。

・山上たつひこ「一軒家」
「豪雨の中、山中の藁ぶきの一軒家に、学生が雨宿りを求めて、やって来る。
 古びた一軒家には、老人が一人、囲炉裏の前に座っており、快く青年を迎える。
 そのうちに、登山をしていてはぐれた商人、若いカップル、中年の農民が相次いで、雨宿りに訪れる。
 皆がリラックスして、打ち解けてきた時、老人がある話を始める。
 それは地球から遠く離れた、ある星で起きたという話であった…」
 「一軒家 単行本未収録傑作選」(小学館クリエイティブ)にて復刻されているはずですが、確認を取っておりません。
(その本は納屋のどこかにあるのですが、この暑さ故、探し出すのが億劫なのであります。)
 それにしても、H・G・ウェルズ「宇宙戦争」の頃から、人類ってやっぱり「○○」なんですね〜。(注2)

・竹田たけお「トンでもないやつ」
「夫婦喧嘩の後で妻が失踪したと、辰三という男が警察署に届け出る。
 新聞にも尋ね人の記事が出た後、辰三の隣に住む青年が不審な点があると警察に知らせに来る。
 青年が言うには、辰三の妻が家から出ていった気配がないとのこと。
 クサいと感じ、刑事二人は辰三の家を訪ねることにする。
 辰三は家で豚や鶏を育てて、生計を立てていた。
 石炭ガラの中の結婚指輪、暖炉にあった血痕、そのそばの壁を塗り直した跡…辰三が妻を殺した疑いは濃くなる。
 しかし、肝心の死体がなく、刑事達は仕方なく引き返そうとしたその時…」
 同傾向の話は、浜慎二先生の「鶏は可愛いペット」(「オール怪談・47」収録)とかあります。
 推測ですが、「豚と軍艦」(1961年/未見)という邦画が影響を与えたのではないでしょうか?(私の勘違いかもしれません。)
 ちなみに、この話、ラストはとってもグログロで、「デビルスピーク」を思い出しました。

 扉絵、目次のページの絵、いばら美喜「リュックの娘」が「オール怪談・39」からの使いまわしです。
 目玉は何と言っても、山上たつひこ先生の傑作「一軒家」でありましょう。ブラック・ユーモア溢れる逸品です。

・注1
「映画秘宝 あなたの知らない怪獣まる秘大百科」(洋泉社MOOK/1997年1月7日発行)のpp88・89を参照のこと。

・注2
 他には、私が今思いつく限り、デーモン・ナイト「人類供応法」、いばら美喜先生の「黄金」といった作品があります。

・備考
 ビニールカバー剥がし痕あり。カバーに折れ痕あり。糸綴じの穴あり。pp88〜93(山上作品)、p100(竹田作品のタイトルページ)の上部、目立つシミあり。後ろの遊び紙に貸本店のスタンプと貸出票の剥がし痕あり、また、その剥がし痕が穴になっている。

2016年8月15日 ページ作成・執筆
2017年5月9日 加筆訂正

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