「オール怪談・82」(220円)



 収録作品

・小島剛夕「老の坂」
「さすらいの身である千束佐四郎と姫。
 京へ向かう二人が老の坂にさしかかった時、佐四郎は物の怪の幻を見る。
 物の怪は佐四郎に、「悪鬼外道の心」を持ち、「三つの心の戦い」に勝てば、天下を取ることができると告げる。
 ただし、外道の心を離れることがあれば、「千尋の水の底」の運命だと言う。
 その予言通り、佐四郎は、明智光秀の行方不明の弟、明智左馬之助の名を騙り、岡山城の主となる。
 次には、織田信長の不興を買い、悩む明智光秀を焚きつけ、本能寺の変を起こさせる。
 全ては姫のためと、良心をかなぐり捨てた佐四郎であったが、そんな彼の姿を見て、姫は悲嘆に暮れる。
 そして、三度目の「心の戦い」に勝てば、佐四郎は「天下の御主(おんあるじ)」となれるのだが、…」

・福田三省「折れた虎徹」
「刀匠、長曽根虎徹が心血を注いで作り上げた刀。
 彼の前には、彼との勝負に負けて、自刃した刀匠の助宗の亡霊が幾度と現れ、その亡霊に負けないためにこの刀をつくったのであった。
 鉄でも石でも両断するという切れ味を持ちながら、職人気質の長曽根虎徹は優れた腕を持つ武士にしかこの刀を売ろうとしない。
 家はひどく貧しく、虎徹の病弱な娘、お千代に薬もろくろく買えず、虎徹の弟子の佐太郎は金をつくるために、師匠のもとを出る。
 ある夜、お千代が惚れている、浪人の滝川のもとに金が置かれ、それで虎徹を買うようにとの手紙が置かれていた。
 滝川はその金で虎徹を手に入れるのだが、ささいなことで人を斬ってしまい、追われる身となる…」



・西村つや子「猫屋敷」
「ある姫様の住むお屋敷。
 琴姫に仕える侍女、信乃は門前で寒さに震えていた痩せ猫を飼い始める。
 猫はタマと名付けられ、元気になり、琴姫からも大事にされる。
 しかし、奥の主、明石局は猫を大の苦手としていた。
 また、町人の出で、姫のお側仕えに取り立てられたことに、他の侍女から反感を持たれる。
 局と侍女達は、信乃を陥れるために、琴姫の姉、綾姫の部屋を、他の猫を使って荒らし、信乃とタマのせいにする。
 その際は、琴姫の取り成しによって、どうにか済んだものの、今度は綾姫の大切なオランダ鏡が壊されてしまう。
 責任を追及された信乃はとうとう城内の井戸に身を投げてしまう…」
 佳作です。
 非常に丁寧に描かれており、着物姿のお姫様の描写は「美しい」の一言。  怪奇色は薄いのですが、西村つや子先生の麗雅な筆致を味わうべき作品です。
 こういう短編を読むと、生きている幸せを感じます。

・備考
 非貸本。カバー上部と表紙に、何かを落としたような窪みが五か所あり。カバー背表紙痛み。後ろの遊び紙上部の隅に「150」の鉛筆による書き込みあり。

2016年1月24日 ページ作成・執筆

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