松下哲也「怪談美少年狂い」(220円)

「赤土の坂を上がったところにある、城造りの屋敷。
 そこは、高貴な家柄の娘御のためが行儀作法を身につけるために、寝泊りしているところであった。
 お目付け役の老婆と、身分やんごとなき娘が六人、それから、身寄りのない下働きのてるみ。
 ある日、踊りの師匠として、光がやってくる。彼は若く、美しかった。
 娘達は彼にぞっこん、皆、あの手この手で光に接近しようとする。
 が、実は、光は、公爵の娘、寿と相思相愛の仲になっていたのだ。
 様々な思惑が入り混じり、遂には…」

 タイトルに「美少年狂い」と銘打ってあるので、「バンコラン」(by『パタリロ』)(注1)のことかと思ったら、全く見当違いでした。
 また、冒頭に「美しい少年が訪れることによってまき起こる華麗なる恋絵巻」とも書かれておりますが、そんな華やかなものではありません。
 どちらかと言うと、「女の園に男が乱入して、愛憎入り乱れる」といった感じで、「ドロドロ」しております。
 物語の主人公は、光と寿かと思いきや、実際は、光に恋焦がれて発狂する美園と、下働きのてるみです。
 この二人がこの作品でのキー・パーソンですので、この二人をうまく使えば、佳作になったと思うのですが…。
 と言うか、光も寿も存在感がなさ過ぎなんです。
 だからと言って、駄作というわけでもなく、佳作というわけでもない。
 惜しいとつくづく思います。

・注1
 余談ですが、ディクスン・カーの処女作「夜歩く」に出てくる探偵の名が同じく「バンコラン」でして、読む時に困りました。
 どうしても、「パタリロ」のキャラで脳内再生されてしまいますから…。

・備考
 ビニールカバー貼り付け、それによる表紙の歪み。糸綴じあり。小口下部に落書き。

平成27年8月7日 ページ作成・執筆

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