杉戸光史「美しき奇形児」(220円/1966年4月2日完成)



「画学生の松井正雄に宛てられた、川島洋子という女性からのラブレター。
 正雄は全く興味を示さなかったが、妹の真由美が首を突っ込んだことから、正雄は吉川美恵子という女性と偶然に知り合う。
 正雄と美恵子は一目見た時から、互いに惹かれ合う。
 また、正雄には、美恵子は心中で崇拝していた「女神」とそっくりであった。
 交際が深まるにつれ、二人の愛情は深まっていくが、そんな彼らを川島洋子はひそかに窺っていた。
 ある夜、犬の散歩に出かけていた美恵子は、川島洋子と老婆に襲われる。
 抵抗すると、川島洋子の仮面が落ち、美恵子は驚愕、逃げようとするものの崖から転落して気絶してしまう。
 そして、川島洋子と老婆は美恵子をどこかへと運んでいくのであった。
 正雄を愛するが故に手段を選ばない川島洋子の正体とは…?」

 そのスジでは非常に有名なタイトルですが、内容はそこまで衝撃的なものではありません。
 マンガに出てくる「奇形児」の正体を知ったら、拍子抜けすること請け合いです。
 そもそもこれを「奇形児」と呼ぶべきものなのか(注1)…どうも杉戸光史先生は言葉の意味を拡大解釈している節があります。
 まあ、表現におおらかな時代ならでは、ということなのでしょう。
 とにもかくにも、タイトルとジャケット(だけ)はイカすと個人的には思います。
(内容に関して書くと、「《生命》というものを…表現してみたかった…」(p134)と力が入っておりますが、残念ながら、タイトル負けしている模様。もっとしっくりくるタイトルだったら、正当に評価されたかもしれません。ただし、ここまで騒がれることもなかったでありましょう。)

 ちなみに、このマンガには落書きがありまして、それは「ミロのビーナス」(注2)のページであります。(上の中央画像と右の画像)
 これが、胸にブラジャーとか、お股に毛とか、そういった感じの落書きでありまして、最初に目にした時には「トホホ〜」とガックリきました。
 推測するに、落書きの主は、思春期の過剰な欲望を背負って、頭の中がピンク色の妄想ではち切れんばかりの中学生でありましょう。
 まあ、私も同じような道を通ってきましたので、人のことは決して言える身ではないのですが、やっぱり借り物に落書きはいかんなあ〜。
 このせいで「ミロのビーナス」→「お股に毛」という刷り込みがされてしまいました。困ったものです。

・注1
 ロン・チェニー扮する「オペラ座の怪人」(どくろ面の方)が近いと思います。

・注2
「爪をかむ癖をやめないと、こうなるよ。」(ミロのヴィーナスを見て) by ウィル・ロジャース(注3)

・注3
 フランク・サリヴァン・他「ユーモア・スケッチ絶倒編 忘れられたバッハ」(ハヤカワ文庫/1991年11月30日発行)p3から(勝手に)引用。
 この本に収められている、フランク・サリヴァンの「紋切型博士」がツボにはまっております。

・備考
 状態悪し。ビニールカバー貼り付け。カバー痛み、背表紙上部に破れ。金綴じあり。全体的に水濡れの痕あり。読み癖ひどし。汚れ、シミ多々あり。pp1・135、落書きあり。pp113・114、大きな裂けあり。後ろの遊び紙、貸出票の剥がし痕あり。

2016年4月7日 ページ作成・執筆

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