池川伸治「三つ目のママ 四つ目のパパ」(220円/1965年頃)

 冒頭、
「もし、あなたが交通事故か何かの事故で、手を落したり、足をなくしたりしたとすれば、それは遠い昔にあなたのおじいかんかおばあさんか、そのおじいさんかおばあさんか誰かが、他人の足を傷つけたり、他人の手を刃物でけがさせたりした、その罪業が現在のあなたに現れるといわれております。
 ですから、もし現在、あなたが悪い事をすれば、それによってあなたの子孫も苦しむことになりましょう。」
 と、いきなりにヘビーな書き出しで始まりますが、池川伸治先生にとってはいつものパターンです。
 これで見当つきますように、因果応報もののストーリーです。

 では、粗筋紹介をどうぞ。
「主人公の愛子は13歳。
 7歳の頃から、額の包帯を外したことがありません。そのため、皆から「ほうたい要子」と呼ばれております。
 愛子だけでなく、そのパパとママ、妹のアコも額に包帯を巻いております。
 何故額に包帯を巻いているのか?
 両親は「先祖のしきたり」と説明し、包帯を取ったら、死ぬと言われています。
 実際、昔のアルバムを繰ってみると、愛子のご先祖様は皆、額に包帯を巻いているのです。
 愛子は、どうして包帯を巻いているのかという疑問に取り付かれ、包帯の下を見たくて仕方がありません。
 しかし、愛子の周辺にはいつも使用人の爺が影のように付きまとい、行動を見張っております。
 愛子は爺をまこうと必死ですが、敵もさるもの、布団の中でもトイレの中でも包帯を取るのを阻止されました。
 ある日、友達の家で包帯を取ろうとした時も、爺がその家の天井裏から飛び降りてきて、できません。
 愛子は考え抜いて、ある策を練ります。
 とある裏山の洞窟に女友達と入るとすぐに、数人の男友達に大きな岩で入り口を塞いでもらうというもの。
 この策がうまくいき、蝋燭の光の下で、包帯をほどいてみたのですが…別に額には何もなかったのです…。
 この件で、愛子はますます両親に対して不信感を強めます。
 愛子は爺に包帯を取ったことを打ち明け、「この事が両親にばれたら、爺はクビになるだろう」と脅迫し、協力を迫ります。
 爺もクビは困るし、包帯の下についても好奇心があったこともあって、了承します。
 まず、両親のことを調べる愛子。
 母親に関しては、昔の写真では別に包帯など巻いてなく、全く異常なし。
 父親に関しても、爺によると、包帯を取った時があったが、全く何もなかったとのこと。
 残るは、妹のアコ。
 アコは昔から病弱で、近頃、また病気がひどくなっているのでした。
 愛子は「アコの額に何かあって、それを隠すために包帯をしているのではないか? 皆が包帯していれば、不自然には思えない」と推理します。
 が、「何故、ご先祖様まで包帯をしていたのか…?」という疑問が残ります。
 とにかくも、愛子はアコに包帯を取るよう頼みますが、包帯を取ると死ぬと信じ込んでいるアコは半狂乱になって取り乱します。
 そこで、愛子は、「包帯を取っても何もないことを皆に知らしたらいいのではないか」と思い、包帯が「自然に」ずり落ちたことにして、家族の反応を確かめようと考えます。
 翌日の朝、愛子は顔を洗った拍子に、包帯が自然にほどけてしまった振りをして、家族の前に姿を現します。
 とたんに顔色を変える両親。
 包帯を取っても何もないことを訴える愛子ですが、両親は家中のカーテンや雨戸を閉め、母親は愛子に友達への別れの手紙を書くよう言われます。
 学校には退学届けが出され、両親にアメリカに行くことをきつく言い渡されます。
 包帯を取った愛子に、アコが会いに来ますが、両親は「もうすぐ愛子は死ぬ」とアコから引き離し、二日の間、部屋に監禁されます。
 三日目に部屋から出してもらえますが、すぐに爺と一緒にアメリカに向かわねばならないと言われます。
 そして、アメリカに行く前に、愛子は包帯の秘密を教えてもらうのでした。
 父親が言うには、
「昔からわが家には一代に、必ず一人は奇病を持って生まれ出る、不思議な運命があるんだよ。
 頭部を中心にした奇病なんだ。
 古い言い伝えによると、この運命は過去の世において、われわれの先祖が数多くの首をはねた、その罪業がこのような奇病となってわれわれを苦しめる…」らしいです。
 そこで、その奇病にかかっているアコが自分の包帯を外さないよう、家族全員で包帯を巻き、包帯を外すことがないよう、包帯を外すと死ぬとまで言っているのです。
 包帯を外した愛子がアメリカに行くのも、愛子が死んだことにしないと都合が悪いからという理由なのでした。
 そして、注射で眠らしてあるアコの包帯を下を見てもいいと言われます。
 爺と共に、愛子はアコの包帯を解いていきます。
 しかし、アコも包帯の下には何もありません。

 そこへ、父親がやってきて、「包帯をとっただけではわからんよ」とアコの顔面にナイフを突き立てます。
 実は、アコの頭部の上半分はつくりもので、実際は頭半分しかなかったのでした。
 その光景に気を失った愛子が意識を取り戻した時、愛子はアメリカへの機上の人となっていました。
 半年後に、アコは病死し、日本に戻った愛子はまた包帯を巻く生活を始めました。
 先祖の宿業を身に背負いながら…。
 おわり。」

 あの〜、何故に、この内容で『三つ目のママ 四つ目のパパ』になるんでしょうか?
 全然、内容とタイトルが絡んでこないのですが…。
 まあ、いいではありませんか。
 これも「味」なのです。(「味」とは非常に便利な表現でありまして、下手な演奏でも演技でも料理でも絵でも、それが「味」と言われれば、妙に納得してしまったりします。まあ、人は簡単にだまされるものなんです。)
 こんな味わいのあるタイトルは滅多にないではありませんか。(うん、すっかりだまされてます。)

 わたくし、これを読んだ時にすぐ、以前に紹介いたしました「首だけ赤ちゃん」が出てくる松下哲也『17才の恐怖のママ』がオーバーラップいたしました。
 実は、松下哲也先生は、池川伸治先生のお弟子さんに当たる方でございます。
 その昔、池川先生は、太陽プロというプロダクションを開いておりました。
 手塚治虫を慕って、トキワ荘に石ノ森章太郎や藤子不二雄、つのだじろう等の大物が集まったように、池川伸治先生がリーダーの太陽プロにも個性派が集結しました。
 貸本怪奇マンガの女王さがみゆき先生、正統派怪奇マンガからエロマンガ、創○○会系マンガまで遺した故・杉戸光史先生、ひばり書房に残した「せむし狂女」「猫喰い少女」等で知られる宮本ひかる先生、川辺フジオという名前で描いていた○○○先生、それに松下哲也先生や故・三田京子先生等の、泣く子も黙る、強烈な面子が勢揃いしておりました。
 そんなブ○○○グソース顔負けの濃厚な面々を率い、彼らの精神的支柱になっていたのが、池川伸治先生。
「首だけ赤ちゃん」の元ネタというか、発想の原点は、この「顔が下半分だけ女の子」だったのではないか、と妄想を逞しくしている次第なのであります。
 また、同じ弟子筋の杉戸光史先生の『三つ首塚の血』にも「前世で八つ裂きにされたため、発作が起きると、首と四肢がバラバラになる奇病にかかった女の子」というキャラが出てくるので、ここにも影響を及ぼしているのではないかと、ここでもいらぬ勘繰りをしております。
 何と甚大な影響力なのでありましょうか!!
 何故、これほどのカリスマを持った池川先生が、マンガ文化の発展等の崇高な使命に燃えながら、ひたすら怪奇マンガばかり描いていたのか…?
 謎です…。こればかりは、本当に、ワケ、わかりません。
 本書で読者からの質問に答えて、「新しいもの、新しいもの……と考えているうちに、スリラーが出来上がった」と答えておりますが、個人的には「やっぱ、こういうマンガが好きだったんだろうな〜」と根拠はないのですが、考えております。

 それにいたしましても、今となってはギャグでしかない、このような「奇想」も時代と共に洗練されていき、ムロタニツネ象先生、伊藤潤二先生、呪みちる先生に代表される、奇想の 炸裂した怪奇マンガの源流の一つを見るのは、穿ち過ぎた意見でしょうか?
 今一度、過去のマンガ全般を、「笑える」という基準でなく、「奇想」や「想像力」という基準で、再評価・発掘が行われることを心より願っております。
(ちなみに、私はゼニーというものが欠如しておりますので、はっきり言って無理でございます。こういうちっぽけな場で、ぶつくさとつまらない能書きをたれるのが、精一杯なのであります。)
 ただ、現在、スマートフォンの普及で、マンガのネット配信が盛況をもよおしているという話です。
 書籍としては出版するには利益の出ない、こういう過去の作品が、重箱の隅からほじくり出すように、どんどん復刻されるやもしれません。
 忘れ去られた作品がまた日の目を浴び、忘れ去られた作者がまた脚光を浴びるよう、心より祈っております。

・備考
 状態非常に悪し。ひたすらにボロい!! ビニールカバー貼り付け。全体的に水濡れとそれに伴う歪みあり。とても書ききれないので、後の状態については略。

平成24年5月31日 執筆
平成27年11月23日 ページ作成・改稿

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