松下哲也「鈴が殺した少女」(1965年初頭/220円)

「その一の呪い 死を招く鈴」
 時は戦国。元亀元年頃の近江。
 夕霧城の若君、千代丸は遠出に出た際に、何者かに襲撃される。
 どうにか撃退して、曲者は逃亡するが、その際に鈴を鳴らしていた。
 傷を負った千代丸は、通りがかりの民家で一夜の宿を請う。
 そこには、夕菊という美しい少女が住んでいて、心から世話をしてくれるが、少女の腰元にはあの鈴が飾られていた。
 翌日、千代丸は城に戻るが、帰順を迫る織田信長からの使者が訪れていた。
 野獣のような信長を嫌う千代丸は、帰順を断り、使者を帰らせるが、その使者が何者かに殺害される。
 鈴の音色を証拠として、夕菊が捕らえられるが、千代丸は自分が使者を殺したと名乗り出る…」

「その二の呪い めくら死に」
 時は流れ、会津戦役。
 白虎隊として出陣した和助の身を案じる椿。
 彼女は、白虎隊と同じ格好の男装で、戦地に駆けつける。
 腰元には、和助から送られた鈴を付けていたが、この鈴は和助が近江の夕霧城跡で拾ってきたものであった。
 和助が気付くように鈴を鳴らしながら、戦地をさまよう椿だが…」

「その三の呪い 鈴は死ねない」
 現代。
 盲目の少女のところに届く、点字のラブレター。
 差出人は「M・T」。決して姿を見せようとしない。
 ある日、手紙には、彼が白虎隊が自決した飯盛山で拾ったという鈴が入っていた。
 少女は「M・T」に会いたいと願うが、少女は彼を「美しい高校生」と想像していた。
 しかし、彼女の想像と現実との乖離に苦しんだ「M・T」は町を去ることにする。
 彼が町を去ろうとした夜、ある踏切で二人は出会う。
 その淋しい踏切は夜遅く、鈴の音が鳴るという噂のある踏切であった…」

 え〜と…失敗作です。
 こう言ってしまうのは理由がありまして、鈴の呪いの所以が最後の三ページで一気に(また、取ってつけたように)説明されるからです。
 普通、鈴にかけられた呪いがストーリー進行につれて徐々に明らかにされるものだと思うのですが、そんな説明など一切なく、鈴の呪いが原因の三つの悲恋物語を読者はただ読まされるだけなのです。
 そりゃ、ないだろう〜と首を傾げてしまうのですが、個々のストーリーに関しては、いいのです。
 第一話は邦画の名作「武士道残酷物語」、第二話は小島剛夕先生の「花の白虎隊」の影響を受けていると思います。
 絵もこの時代の絵は非常にいいのですが、ただただ、全体の構成に難あり…。
 杉戸光史先生が描いたら、それなりにしっくりした内容になったのではないでしょうか?

・備考
 カバー貼り付け。背表紙、絵の部分に痛み。巻末、貸出票貼り付け。小口の底面、貸本店のスタンプ押印。

平成27年8月21日 ページ作成・執筆

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