杉戸光史「おどろめどろ」(220円)

「洋二とのり子は、重度の心臓病のため、長年療養中の真奈美の別荘に滞在していた。
 二人は、別荘の近くにある広大な鍾乳洞を訪れる。
 奥には深い淵があり、その向こうには階段状の岩壁があった。
 そこの番人の老人が言うには、その階段は天国に通じており、めどろ様が住んでいるとのこと。
 一方、階段の下には、地獄に通ずる、硫黄の湧き出ている泉があり、おどろ様という地獄の守り人が住んでいると言う。
 洋二は老人の言うことを鼻で笑い、バチを当てれるものなら当ててみろと、階段状の岩壁に向かって、石を投げつける。
 二人が別荘に戻って後、のり子と真奈美が庭で話をしていると、どこからか硫黄の臭いが漂ってくる。
 庭の片隅にある空井戸が原因のようで、のり子と真奈美が井戸へ寄ると、硫黄水の中から、怪しい男が姿を現す。
 悲鳴を聞きつけ、洋二は駆け付けるが、怪しい男の姿はどこにもなく、井戸は元通りの空井戸であった。
 このことが真奈美の心臓に多大なショックを与え、意識不明に陥る。
 更に、その夜、真奈美の継母とその弟が別荘を突然、訪ねてくる。
 東京にいる、真奈美の父親が轢き逃げに遭い、重傷を負ったという知らせを伝えるため、車で乗りつけてきたのであった。
 継母は洋二とのり子に代わって、真奈美の看病を申し出る。
 その夜更け、継母がうたた寝している時、真奈美の前に、父親の幽霊が現れる。
 父親の幽霊に誘われるように、真奈美は二階のベランダに歩み出る。
 同じ頃、就寝中ののり子に、謎の女性が、真奈美が殺されると警告する。
 のり子は真奈美の寝室に急行するが、継母の目の前で、真奈美はベランダから転落していた。
 事故現場に洋二も現れるが、彼らの目前で、謎の人魂が飛び回る。
 また、真奈美の死体の頭部からも人魂が脱け出し、二つの人魂は庭の空井戸の中に吸い込まれるように飛び入る。
 しかし、後で井戸を調べても、何の変哲もない空井戸であった。
 次々と起こる奇怪な出来事…おどろ様とめどろ様の祟りなのであろうか…?」

 故・池川伸治先生率いる太陽プロの重鎮の一人、故・杉戸光史先生。
 池川伸治先生が自分のマンガに独特の思想を持ち込んだように、杉戸光史先生は「宗教」を持ち込んでおります。
 後年のバリバリの創○○会でしたが、この頃は特に宗教は固まっておらず、特定の宗教観というものは持っていなかった印象を受けます。
 後書きのページ(p124)によると、この作品で「善の行いをした者はよい報いを、悪事を行った者は死後も永遠に苦しみ続けねばならないという輪廻の世界を描かん」としたと書かれておりますが、「死後も永遠に苦し」むのなら「輪廻」とは言えないのではないですか、杉戸光史先生?!
 そういうワケで、「宗教」を核に据えながら、うまくストーリーに溶け込んでいるとは言えず、どこかひずんでいるような感じになっております。
 まあ、それもご愛敬、「宗教」に「正解」はないのであります。
 皆それぞれ、各自各様の「人生」「神」「死」というものに思いを巡らし、向き合わねばなりません。
 杉戸光史先生もあれこれ思い悩んだ末、自分の考えをマンガというメディアを使って表現しようとしたのでありましょう。
 個人的には、金目当ての新興宗教が出している、似非スピリチュアル・マンガの千倍は「宗教」的だと思います。
 最後に、ただただ、杉戸光史先生が「天国への階段」を上れたことを祈るばかりであります。

・備考
 本体に波打ち状の歪みあり。ビニールカバー剥がし痕あり(ビニールカバーの一部、裏に貼りつき)。糸綴じあり。p124の作者の後書きページ、遊び紙とひっつき、一部剥がれ。巻末、貸本店のスタンプあり。

2016年7月24日 ページ作成・執筆

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