森由岐子「怪談お糸地蔵」(220円)



「美登利は、12歳の時、支度金十万円で京都の屋形、梅の屋に奉公に出される。
 朝の五時から掃除、洗濯、炊事に追われ、その合間に、三味線、踊り、唄などの稽古があり、更には、先輩の姐さんに女中のように仕えねばならなかった。
 そんな苦しく悲しい五年間を経て、美登利は美しい舞妓へと成長する。
 ある日、美登利はぽっくりの鼻緒が切れたことが縁となり、学生の根室光と知り合う。
 二人は清い交際を続けるが、美登利のことを知った光の両親によって、光は交際を止められてしまう。
 その間に、美登利の結核は悪化の一途をたどる。
 にもかかわらず、鬼に様な梅の屋の女主人はろくな療養もさせず、美登利を座敷に出させる。
 しかも、女主人の乱暴によって、美登利は熱湯を顔半分に浴び、二目と見られぬ顔になるのであった。
 光は両親によって東京の伯父のもとに送られることになり、出発の直前、美登利に会うため、梅の屋を訪れる。
 光は美登利の容貌を意に介さず、彼女に慰安の言葉をかけ、励ます。
 しかし、光が東京から薬代として送った金や手紙は全て、女主人が自分の懐に入れる。
 自分の死期を悟った美登利は髪を結って、着飾り、日頃お参りしていたお糸地蔵の前まで出向く。
 同じ頃、東京にいる光は、窓の外に舞妓姿の美登利の姿を目にする。
 光が美登利のもとに駆け寄ると、火傷の痕は消え、もとの美しい顔立ちであった。
 だが、抱きしめる彼女の身体はとても冷たい。
 伯父に呼ばれ、気が付くと、美登利の姿はすでになかった。
 胸騒ぎを覚えた光は急いで京都に戻るのだが…」

 森由岐子先生の典型的な悲恋ものです。
 単なるお涙頂戴で終わらせるのではなく、「女の情念」をきっちり核に据え、凄惨さを醸し出すストーリーは、当時としては斬新であったかもしれません。
 繊細な心理描写も冴え、ストーリーの完成度も高く、良質な作品だと私は思います。
 それにしても、森由岐子先生の描く「意地悪」キャラって、いちいち説得力があって、本当にいそう…。

・備考
 ビニールカバー貼り付け(ボロボロの他の本から持ってきました。外せます)。カバーに水濡れの痕あり。本文、目立つシミ、汚れ、幾つかあり。

2017年2月3・5日 ページ作成・執筆

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