松下哲也「怪談赤い湯の花」(220円)

「宮城県北部を流れる江合川の支流、荒尾川を遡ったところにある鬼頭温泉。
 そのバス停に一人の青年が降り立つ。
 彼はふとしたことから、恵子と知り合い、彼女の父が経営する宿屋に宿をとる。
 宿に泊まった夜、夕涼みに出かけた彼は、宿の裏山を登ろうとして、宿の主人に止められる。
 青年はどうして自分が山に登ってはいかないのか、釈然としない思いを抱く。
 翌日、青年に憧れを抱く恵子が彼にあれこれ世話を焼こうとしても、青年は上の空。
 青年は上っていけないと言われた山のことが気になって仕方がなく、彼は人目を忍んで、山へ登る。
 山の頂上には、大木があり、その下に美しい女性が立っていた。
 彼女は青年を見ると、「高雄さん」と呼び、抱きついてくる。
 人違いだと釈明する暇もなく、女性は倒れ伏し、青年は女性をひとまず宿へ運ぼうとする。
 しかし、太陽に眼が眩んだ瞬間、両腕に抱いていた彼女は消え失せてしまった。
 途方に暮れた宿に戻った青年は、宿の主人に山に登ったことを悟られてしまう。
 宿の主人は青年にその女性は山で自殺した女の亡霊だと説明するが…」

 自然描写が雰囲気があって、いい感じです。(松下哲也先生は実際に鬼頭温泉に行かれたのでは?)
 また、主人公に想いを寄せる、サブキャラの恵子の活き活きした描写も、ストーリーのアクセントとなっております。
(なかなか可愛い女の子であります。日ごとに着物の柄が違っているのが見事!! もちろん、全部手書きです。)
 ただ、ストーリー的には、結末が明らかに説明不足。尻切れトンボで終わっています。
「女の執念」が青年にもたらす破滅をきっちり描写したら、それなりの佳作になったと思うのですが、返す返すも残念。惜し過ぎます…。

・備考
 背表紙上部と下部、破れあり。カバーの裏に剥げあり。それ以外は状態良し。

平成27年7月7日 ページ作成・執筆

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