池川伸治「毒虫と聖女」(220円/1965年6月3日完成)
「中川あけみは勉強はクラスで一番、心は優しく、その上、美人という、欠点の見当たらない少女。
あけみが来るまではクラスの人気者だった、楠久枝はあけみに猛烈な嫉妬を燃やす。
しかも、好意を寄せていた山本治があけみに惚れていて、久枝の嫉妬の炎にますます油を注ぐこととなる。
久枝は、あけみへの嫉妬と、醜い自分への自己嫌悪の板挟みとなった結果、情緒不安定となり、奇行を繰り返すのだった。
そんなある日、あけみに奇妙な手紙が届く。
内容は、明日、あけみの背中に穴があくという内容であった。
いたずらかと思いきや、翌日、授業中、突然にあけみのセーラー服の背中の部分が破れ、穴があいてしまう。
原因は全く不明であったが、あけみは治に、家の壁が壊されたせいと話す。
あけみは、家は自分自身を表し、家の状態が自分に影響を与えると考えていた。
治にはさっぱり理解不能であったが、あけみの身に、第二の奇怪な事件が起こる。
それらの事件の裏では、暗躍する久枝の姿があった…」
怪作だと思います。
ネタバレになりますので、ストーリーについて詳しく書くことは控えますが、「家=人間」という発想はかなりユニーク。
普通、こういうことを思いついても、漫画に仕立てようなどとは考えないものですが、池川伸治先生は独特のこだわりを織り交ぜながら、本を一冊描き上げちゃいました。
それが成功しているかはどうかはともかく、そのチャレンジ精神には敬服いたします。
(このような、ジャンルの裾野を広げようとする意思と努力が、漫画をここまで発展させた礎だと、私は考えております。)
また、ヒロインの楠久枝のエキセントリックぶりも特筆に値するでしょう。
嫉妬に狂いまくり、ヒステリーの発作を起こす描写は、あまりに独特で、似たような描写は見たことがありません。
そして、ラスト。
「神様 今度生まれてくる時は 私に……いえ人々に……平等に美をお与え下さい……」
もう何も書くことはありません…。
・備考
ビニールカバー剥がし痕あり。糸綴じあり。読み癖あり。シミやコマにかかる切れ、多くあり。p40、ヒロインの唇に赤く着色。pp69・70、コマの中に破れ。後ろの遊び紙、貼りつき。
2016年6月4日 執筆・ページ作成