松本洋子「魔物語」(1993年12月6日第1刷発行)

 収録作品

・「魔物語」(「なかよし」1993年3月別冊付録
「第1話 にんじん大好き」
「たかしは人参嫌いの男の子。
 食事の時には、人参を残して、いつもママに怒られる。
 ある日、たかしは神様に人参が好きになるようお願いをする。
 その祈りが通じたのか、食べ物が全て人参に見えるようになり、そのうちに、人参を食べることができるようになる。
 しかし、食べ物以外のものも人参に見えるようになり…」

「第2話 最終バス」
「田舎に引っ越した、ひとみを訪ねる早智子。
 ひとみの父親は会社の金を使い込んだ挙句、愛人と無理心中したため、精神を失調した母親と二人、母親の実家に引っ込んだのであった。
 同情を装いつつも、早智子は負け犬となったひとみのことが愉快でたまらない。
 夜更けに最終バスで帰ろうとする早智子に、ひとみは泊まっていく勧める。
 最終バスが通るトンネルでは、人が何人も行方不明になっているとひとみは話す。
 バスには他にも乗客がいたので、早智子は最終バスで帰ることにするが…」

「第3話 ファミリー」
「野村由佳の家族は、優しい両親と可愛らしい妹のエリの、平凡だが、温かい四人家族。
 学校も楽しく、問題はないはずなのに、時々、たまらなく不安になる。
 ある日、由佳はエリが6階のベランダから落ちたことを思い出す。
 6階から墜落したにもかかわらず、エリは二週間で家に戻ってきた。
 しかし、両親もエリも、そのことを記憶していない。
 自分がおかしくなったのではないかと疑う由佳は、ある夜、真実に直面することとなる…」

「第4話 乗り合わせた死神」
「ある高層ビル。
 父親に弁当を届けるために、実矢はエレベーターに乗り込む。
 が、急な地震のために、エレベーターは停止、実矢を含めて七人がエレベーターに閉じ込められる。
 そんな中、有名な占い師の女性が心臓の発作を起こす。
 彼女は息を引き取る前に、エレベーターの中に、死神の化身がいると警告する。
 不安に苛まされながら、皆は救助を待つが、今度は、停電になった短い間に、中年の女性が、占い師の持ち物のナイフを心臓に突き立てて、死んでいた。
 死神はどこに…?」

・「そして闇はよみがえる」(「なかよし」1992年8月号・9月号掲載)
「夏合宿のため、鈴音里の紅動(くするぎ)山を訪れる、超常現象研究会のメンバー。
 会長の雨宮悠一、津田真沙子、中尾宏士、小坂彩、みのりと彼女のいとこ、矢上直規。
 矢上直規が郷土資料館で調べたところによれば、昔、このあたりにはUFOが目撃されたことがあり、同時に神隠しが多発。
 消えた人間のそばでは「まっかに光る物体」が出没し、村人達は旅の僧侶に頼んで、その物体を紅動山の洞窟に封印したのだと言う。
 会長の雨宮悠一により、皆は手分けしてその洞窟を捜すこととなる。
 が、みのりは無意識のうちに足が向き、あっさりその洞窟を発見。
 みのりはその洞窟に既視感を覚え、ただひたすらに怖い。
 しかし、皆はその中に入っていき、みのりも直規と共に後に続く。
 洞窟の奥には、古びた土鈴が一つ祀られていた。
 懐中電灯が壊れ、カメラのフラッシュを焚いた時、みのりは土鈴が真っ赤に染まるのを目にする。
 どこからか聞こえた鈴の音に、皆、驚いて洞窟をとび出すが、とりあえず、その前で記念撮影をしてから、帰宅。
 その夜、一人散歩していたみのりは、高台から、部屋の中で雨宮悠一が血まみれで倒れているのを目撃。
 管理人を呼んで、鍵のかかったドアを開けるが、部屋には雨宮悠一の死体も血の痕もなかった。
 しかし、部屋は完全に密室で、それ以来、彼は姿をすっかり消してしまう。
 そして、また一人…。
 直規が言うように、「異星人」が復活したのであろうか…?」

 今やトラウマ・ホラーのマスターピースとしての評価の確定した「にんじん大好き」を収録した、傑作単行本です。(注1)
 「にんじん大好き」ばかりが話題に上がりますが、他の作品も少女向けにしては、やたらヘビーで、読み応えがあると思います。
 併録されている「そして闇はよみがえる」もトラウマ・ホラーの佳作と言っていい力作で、一読して損はありません。

 ちなみに個人的なベストは、この中で一番地味で印象の薄い「最終バス」であります。
 内容自体はそこまで目新しいものではないのですが、ラストのひとみの描写から、実際は、早智子が幽霊バスに乗ったことをひとみは知っていたのではないか、いや、幽霊バスと知りつつ、早智子が乗り込むのを黙って見ていたのかも…と深読みできるような、できないような、そこがどうにもこうにも心に引っかかてしまうのです。
 根が暗いですね…。

・注1
 講談社漫画文庫に「魔物語」が収録された際に、「にんじん大好き」が削られたのは何故?

2016年6月22日・7月5日 ページ作成・執筆
2018年9月23日 加筆訂正

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