莨谷弥生「魔女イルマ」(1987年11月13日第一刷発行)

 収録作品

・「魔女イルマ」
「大学の助教授のスティーブは、兄のジョンを訪れる。
 ジョンはインドで貿易商をしていたが、事故にあい、英国で療養していた。
 スティーブは、ジョンが娘のイルマを虐待していることにひどく驚く。
 イルマはジョンと義姉との間に生まれた一人娘で、非常に美しい、8歳の娘であった。
 だが、ジョンはイルマに家庭教師もつけず、全く関心を持とうとしない。
 スティーブは、イルマを産む際に妻が亡くなったためと考え、陰でイルマに勉強を教える。
 ジョンがイルマを虐待する理由とは…?」

・「明日を走る影」
「ユリアは時間管理局の職員で、過去の時代の風俗を記録するために、1985年に来る。
 ある喫茶店に入り、内部を記録して出るが、立ち去り際、店内にいた青年に「ありがとう」と声をかけられる。
 その後、彼女がタイム・マシンで2162年に向かおうとしたところ、安全装置が作動し、非常ブレーキがかけられる。
 原因は、過去を変えたことで、正統な時間の流れから外れてしまったことであった。
 ユリアが思い当たるのは、彼女に声をかけた青年のみ。
 彼の追跡調査をすると…」

・「白光の記憶」
「昭和六年。
 ある華族のお抱え運転手である高部は妻(晶子)と9歳の息子(正夫)を連れて、伊豆の別荘に向かう。
 霧の深い夜道のためか、車は崖から転落し、父親は死亡。
 しばらくの間、晶子の様子はおかしかったが、そのうち、働き始め、女手一つで正夫を育て、学校にまで行かせる。
 太平洋戦争が起こり、正夫は軍隊にとられるが、南方での生活の最中、子供の頃の交通事故を思い出す。
 その記憶によると、事故の直前、ものすごい量の広い光が前方に迫ってきたのであった。
 終戦後、彼は家庭を持ち、慌ただしさに紛れ、様々な疑問を母親に問いただすことは遂に果たせない。
 だが、母の死後、正夫は真相を知る…」

・「銀也」
「国守寛治の家は代々農家であった。
 酒飲みの父、無表情な母、病弱な妹、口うるさい祖母…そんな家がいやで、彼は学校が終わると、すぐに家の裏に行き、そこで夕方まで過ごしていた。
 ある日、彼は山で狐のような少年と出会う。
 彼の名は銀也で、寛治は彼のケガを手当てする。
 それをきっかけに、二人は仲良くなり、毎日、裏山で遊ぶ。
 中学を卒業した直後、祖母が亡くなり、父親に愛想を尽かした母と妹が家を出ていく。
 絵の勉強をしたかった寛治は、銀也に別れを告げ、東京にいる先輩を頼って、上京。
 先輩のつてで工場に勤めながら、休日には絵画学校に通う。
 だが、東京での生活は挫折と失望の連続であった。
 三年後、失意の彼は田舎に戻るのだが…」

・「羽音の主」
「ある男性。
 彼は少年の頃、「ブーン」という虫の羽音を耳にする。
 その羽音は何故か心安らぐ響きがあり、彼はその羽虫を捜す。
 すると、「羽音の主」は木馬のような乗り物に乗った小人のような不思議な生き物であった。
 この羽音は、彼が戦場に行った時や、不治の病となった彼が冷凍睡眠カプセルに入る時にも聞こえる。
 「羽音の主」の正体とは…?」

・「リカちゃんの内的世界」
「リカは失恋して、スナックでやけ酒を飲みまくる。
 マスターの心配をよそに、見るからに下心ありありの男が彼女を口説き始め…。
 一方、高校生のコウゾウはクラスメートから、もうすぐ世界が終わると聞かされる。
 人々はやけになって、町は大混乱に陥るのだが…。
 この二つの世界がリンクする時…」

 表題作の「魔女イルマ」はロバート・ブロック「子供にはお菓子を」(注1)の焼き直しですが、残りは完成度の高いSFファンタジー作品です。
 そこまで作品を読んだわけではありませんが、莨谷弥生先生はSFに対してかなり造詣が深かったのではないでしょうか?
 この単行本では「明日を走る影」「百光の記憶」「銀也」がなかなかの出来で、中でも「銀也」は個人的なベストです。
 ノスタルジックかつ心温まる物語で、これは泣けます!!
 莨谷弥生先生、とても気になる御方です。どんな漫画家さんだったのでしょうか?

・注1
 ロバート・ブロック「子供にはお菓子を」は貸本時代から怪奇マンガのネタに使われておりました。
 「呪術人形」をポピュラーにした怪奇小説なんでしょうか?
 詳しくは、「怪談・71」を参照にしてくださいませ。

2023年1月20日・2月10日 ページ作成・執筆

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