犬木加奈子「暗闇童話集A」(1993年7月13日第1刷・1996年1月25日第10刷発行)

 収録作品

・「忘れたはずの怖い話」
「第一話 しみ」
 仲の良い、幼い姉妹。
 ある日、かくれんぼの最中、妹は外で溺死する。
 妹の死を把握できない姉は、家の方々で妹の気配を感じる。
 ある夜、姉が布団に入ったまま、天井を見上げていると、その木目に妹の顔が浮かび上がる…。
「第二話 改札口」
 小学校の入学式の帰り道。
 電車に乗る際に、少女は母親から切符をなくさないよう念を押される。
 切符をなくすと、改札口から出られなくなると、母親は話す。  そして、少女が電車から降りた時、ホームで、切符がないために、駅から出られない、黒い影を目にする…。
「第三話 トイレ」
 夜中、トイレに行きたくて、眠れない少女。
 だが、あれこれ怖いことを想像して、逡巡してしまう。
 結局、生理現象には勝てず、トイレに駆け込むのだが、そこで…。

・「かいま見た未来」
「道端の占い師の老婆に出会った時から、ミキ子は未来を見ることができるようになる。
 人の顔をじっと見つめていると、その人の未来が、良きにせよ悪しきにせよ、ぱっと頭に浮かぶのであった。
 人の未来を次々と見ていくうちに、ミキ子は自分の未来を知りたいという欲求を抑えることができなくなる。
 鏡を用いて自分の未来を知り、不都合な未来はどんどん修正し、ミキ子は「失敗のない人生」を送ろうとするのだが…。」

・「ヤドリ蜘蛛」
「異性に対し、嫌悪と欲望というアンビバレンスな感情に苛まされる少女、紅子。
 恐怖症が高じ、部屋に閉じこもった彼女は、自分の部屋に巣を張った蜘蛛が獲物の体液を吸い殺す様を目にして、興奮する。
 以来、彼女は蜘蛛にどんどん餌を与え、蜘蛛が捕食する光景を楽しみ、蜘蛛は彼女の部屋に住みつく。
 しかし、ある日、そのメス蜘蛛がオス蜘蛛と交尾をしており、紅子はショックを受ける。
 更に、交尾の後、雌蜘蛛は雄蜘蛛をあっさり殺してしまうのであった。
 怖くなった紅子は、メス蜘蛛に餌を与えるのをやめるが、蜘蛛はなかなか死なず、彼女に対して攻撃的になる。
 メス蜘蛛のお腹に子供がいることに気付いた紅子は、メス蜘蛛を焼き殺そうとするのだが…」
 楳図かずお先生の「紅グモ」と、傑作短編「蟲たちの家」の影響が顕著であるように思います。(日野日出志先生の「七色の毒蜘蛛」もちょっぴり入っているかも。)
 とは言え、二番煎じなどでは決してなく、「女性」にしか描けない作品となっております。
 思春期の少女が、異性への欲望を蜘蛛に投影させ、遂には自身が蜘蛛へと変化してしまうというストーリーで、女の「性」を象徴的に描いたと言ってもいいでしょうか。(私は男ですので、実際のところは、よくわかりませんが…。)
 ちなみに、ラストはなかなかエグエグです。

・「赤ずきんの森」('91「ホラーハウス」2月発行)
「母と娘は二人、赤い屋根の小さい家で暮らしていた。
 小学校に通うようになった娘に、母は毎夜、赤ずきんの話をして、学校から家に寄り道をしないで帰るよう諭す。
 しかし、娘には、家の外にはそれほど怖くは思えないし、好奇心いっぱいのお年頃、道草が楽しくて仕方がない。
 母が言うように、赤ずきんの森のように恐ろしい生き物が家の外には潜んでいるのであろうか…?」
 幼い頃の心象風景を巧みに描いた名編でありましょう。
 ラストの母親の描写は古賀新一先生ちっく?
 「赤ずきんの森」(大陸書房)からの再録。

・「スクブスの夢」
「幼い頃から不平不満を胸に抱き、心の中で暗く深い穴を育てていった少女、マナミ。
 彼女は夢の中で、邪魔者達を片端から穴に突き落としていく。
 すると、穴に落ちた人物はこの世から消えてしまうのであった。
 そして、時が過ぎ、マナミは恋をする年頃になっていた。
 清瀬という男子生徒に熱い想いを抱いていたが、彼にはチズルというガールフレンドがいた。
 嫉妬の炎を燃やすマナミは、夢の中で、チズルを穴に落とそうとする…」
 傑作です。
 梅雨時のカビに匹敵するほど、陰気かつ粘着質なヒロインはやはり、犬木加奈子先生の絵柄がしっくりきます。

・「わたしはいい子」(1993年「少女フレンド4月号増刊 サスペンス&ホラー特集号」掲載)
「何をしても、何を言っても、「いい子」と呼ばれる少年少女達。
 そう、悪いのは、自分でなく、み〜んな、アレのせいなのだから…」
 ブラック・ユーモアの効いた短編です。
 ラストが強烈過ぎて、笑ってしまうかも…。

2017年3月29日 ページ作成・執筆

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