犬木加奈子「赤ずきんの森」(1991年12月6日初版発行)

 収録作品

・「化粧」('90「ホラーハウス」9月発行)
「地味で大人しい女子学生、音無シズ子は、自分の気持ちを表に出せず、クラスの雑用係。
 ある日、クラスメートが落とした口紅を手に入れたことをきっかけに、彼女は化粧に挑戦する。
 化粧によってすっきり美しくなったシズ子は、言いたいことをはっきり言うことができるようになり、生まれ変わったように感じる。
 化粧の仕方によって、様々な自分になれるようになり、シズ子は自信を深めていくのだが、化粧のし過ぎがたたり…」
 「口裂け女伝説」(講談社)にて再録されております。

・「赤ずきんの森」('91「ホラーハウス」2月発行)
「母と娘は二人、赤い屋根の小さい家で暮らしていた。
 小学校に通うようになった娘に、母は毎夜、赤ずきんの話をして、学校から家に寄り道をしないで帰るよう諭す。
 しかし、娘には、家の外にはそれほど怖くは思えないし、好奇心いっぱいのお年頃、道草が楽しくて仕方がない。
 母が言うように、赤ずきんの森のように恐ろしい生き物が家の外には潜んでいるのであろうか…?」
 幼い頃の心象風景を巧みに描いた名編でありましょう。
 ラストの母親の描写は古賀新一先生ちっく?
 「暗闇童話集A」(講談社)にて再録。

・「運命の恋人」('91「ホラーハウス」1月発行)
「大山キリ子は、自分の美貌を鼻にかけてる女子高生。
 彼女は、クラスメートから自分の未来の恋人を知る、占いの方法を教わる。
 新年になった瞬間、鏡に向かって、自分の名前と生年月日を三回と呪文を唱えれば、鏡にその姿が現れると言う。
 キリ子は大晦日の晩、この方法を試してみるが、現れたのは、想像とは全く違う三枚目。
 しかも、狙っていた男性は、友人の未来の恋人であった。
 結果に我慢できないキリ子は、鏡をだまして、未来の恋人を変えようとするのだが…」
 傑作だと思います。
 奇想が冴えておりまして、ラストの救いようのなさもいいです。
 あと、おスガと呼ばれる女子生徒が、いい味出してます。(モデルはまさか…?)
 後に、「怪奇診察室@」の一編として、収録されております。

・「二人のカオル」('91「ホラーハウス」3月発行)
「小部カオルは、醜い容貌のコンプレックスが凝り固まった、陰気な16歳の女子高生。
 彼女は、不満だらけの生活から逃避するために、華やかで美しい自分を空想して過ごす。
 ある日、学校で転んだ時、自分を助け起こしてくれる青年が空想の中に出てくる。
 彼を自分のものにするために、カオルは自分の空想の中に入り込むのだが…」
 「分身/もう一人の自分」を扱ったもので、意外な展開に唸らされます。
 ラストが、手塚治虫先生の「ザ・クレーターA」の中の一編を彷彿させます。(注1)
 後に、「怪奇診察室A」の一編として、収録されております。

・「ホラー漫画家はこうしてつくられる その@」

・「蜥蜴(とかげ)」('91「ホラーハウス」7月発行)
「チナミは、気の弱い女子中学生。
 彼女は、クラスの女子のボス的存在のルイ子のグループにより、いじめの標的となっていた。
 ある日、ルイ子にトカゲを捕まえるよう命令され、おっかなびっくり、どうにか捕まえるが、トカゲは尻尾を切り離して、逃げてしまう。
 トカゲを逃がした罰をして、チナミはルイ子にその尻尾をムリヤリ食べさせられる。
 翌日からクラスで蜥蜴女呼ばわりされるが、チナミの身体には異変が起きようとしていた…」
 楳図かずお先生の「うろこの顔」の影響が多大…のように思いますが、私、「うろこの顔」を未読なのであります。
 こういう基本をおろそかにしたら、ダメですね…。

・「ミチル転生」('90「ホラーハウス」11月・12月発行)
「中学校に入ると同時に、西野チルルは、父親の仕事の都合で、S県に引っ越す。
 それ以来、チルルはしばしば自分が誰かわからなくなり、溺死する少女の記憶に悩まされる。
 病院を訪れたチルルは、偶然に脳死で寝たきりの少女の病室を訪れ、発作を起こして気絶。
 この少女は東ミチルという名で、十五年前、川で溺れ、脳死状態になっていた。
 しかし、ミチルの母親は彼女の死を認めず、また、ミチルも普通なら一か月も持たないのに、年も取らず、生き続けてる。
 ミチルの謎を解明するために、病院を訪れていたオカルト研究者、神輪は、チルルはミチルの魂が転生したものではないかと考える。
 神輪は、ミチルの魂を救うために、チルルに逆光催眠療法を試みるが…」
 「オカルト・マンガ」の名作です。
 「オードリー・ローズ」(米/1977年/ロバート・ワイズ監督)の影響はあると思いますが、幽体離脱等、オカルト知識を豊富に盛り込んで、上質の「オカルト・マンガ」に仕立て上げたところは流石だと思います。(家族ドラマとしてもきっちり読ませます。)
 また、この頃の犬木加奈子先生のマンガには珍しく、すっきりした目元をしている神輪のキャラも立っていて、ストーリーを奥深くしております。
(でも、一番印象に残るのは、「漫画の神様」然とした容貌の医者と書いたら、シバかれますか?)
 「怪奇診察室@」に「早過ぎた転生」と改題されて、収録されております。

・「ホラー漫画家はこうしてつくられる そのA」

・注1
 「ザ・クレーターA」は、私にとって運命の一冊であります。
 子供の頃、親戚の家からもらってきた、このマンガを、恐怖描写のあるページはビクビクしながらも、貪り読んでおりました。
 どうも、私の怪奇マンガの好みに大きな影響を与えているようようです。
 手塚治虫先生が描かれた怪奇マンガで最も面白いと考えております。(でも、酒を飲みながら読むのは、「ミクロイドS」がサイコ〜です。)

 それと、一つの人間の身体に二つの人格があって、身体が二つに分かれるというアイデアのもとは、大昔のモンスター映画「双頭の殺人鬼」(米/1959年)なのでありましょうか?
 菊地秀行先生が「双頭の殺人鬼」について解説したインタビューを引用しますと、ラストは「悪の半身がバリバリッと本当に分かれて体も二つになる」とあります。
(「映画秘宝 あなたの知らない怪獣マル秘大百科」(洋泉社MOOK/1997年1月7日発行)p89より引用)
 DVD化されておりますので、観る機会がありましたら、改めて報告いたしたいと思います。

2016年8月10・18・19日 ページ作成・執筆
2020年1月3・5日 加筆訂正

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