松尾啓子「怪談番町皿屋敷」(1971年4月1日発行)

「新之助という赤ん坊に恵まれ、幸せいっぱいの青山家。
 しかし、新之助の父が目を離した隙に、将軍家より拝領した十枚の皿のうち、一枚を新之助が割ってしまう。
 新之助の父は、かつて命を助けたことのある、やきもの師の与四郎に命じて、同じ皿を作らせる。
 出来は見事なものであったが、新之助の父は疑心暗鬼にかられ、与四郎を殺害。
 更に、夫の身を案じて、屋敷を訪れた与四郎の妻、ぬいも殺害し、死体を井戸に投げ込む。
 以来、新之助の父は二人の幽霊に悩まされ、遂には、島原の乱で戦死する。
 そして、時は流れ、新之助は十四歳、乱暴者だが、健康な少年に成長していた。
 彼は、ひょんなことから、お菊という少女と知り合い、二人は互いに惹かれ合う。
 ある日、新之助はお菊を屋敷に引き入れた時、新之助の母、さわかは彼女を目にして、衝撃を受ける。
 実は、お菊は与四郎とぬいの間の娘であった。
 お菊の両親が斬殺された時に、青山家を去った下男、茂作によって今まで育てられたのである。
 さわかは与四郎とぬいが成仏できるよう、お菊を屋敷に引き取り、立派な娘になるよう取り計らう。
 お菊は病弱なさわかに甲斐甲斐しく仕え、両親の死体が投げ込まれた井戸を埋めて作られた菊畑をまめまめしく世話する。
 新之助は元服し、青山播磨と名乗るようになるが、彼はお菊に対する想いは変わらず、幼馴染の加納高江との縁談も断ってしまう。
 だが、青山の屋敷に来てから、お菊は見知らぬ男女の亡霊に頻繁に悩まされるようになっていた。
 そして、お菊が両親の死の真相を知った時に、彼女の取った行動とは…。
 播磨とお菊の愛は、お菊の両親の呪いに打ち勝つことができるのであろうか…?」

 「怪談雪おんな」と並ぶ、素晴らしい作品です。
 「番町皿屋敷」をテーマにしておりますが、井戸から出てきて皿を数えるという陳腐な幽霊譚ではありません。(注1)
 その代わりに、(恐らく)作者独自のアレンジを施し、高い完成度を持った「純愛もの」になっております。
 この稿を書くにあたり、久々に読み返したら、ジ〜ンときちゃいました。
 少女マンガ風の絵柄に好き嫌いはあるでしょうが、作者の心のこもった、「美しい」作品だと私は思います。
 後に、ヒバリ・ヒット・コミックスにてカバー絵を替えて、再録されております。

・注1
 「番町皿屋敷」は「四谷怪談」「牡丹燈籠」と並ぶ、怪談の古典でありますが、マンガ化されたものはあまり記憶にありません。
 私の知る限りでは、小島剛夕先生の「番町皿屋敷」(貸本の「オール怪談・64」「オール怪談・65」に掲載/原作は岡本綺堂のようです。)ぐらいしかありません。
 また、映画に関しても、「四谷怪談」「牡丹燈籠」と較べると、ぐっと作品数は少ないように思います。(日本の怪談映画は詳しくないので、検証は他の方にお任せいたします。)
 理由を考えたところ、「四谷怪談」「牡丹燈籠」は亡霊が男を追っかけて、どこにでも現れるのに対し、「皿屋敷」のお菊さんは井戸に縛られているせいではないでしょうか?
 欝々と皿を数えるだけの地縛霊よりも、憎い相手をとことん追い詰める怨霊の方が遥かに迫力ありますし、絵的に映えます。
 また、「四谷怪談」「牡丹燈籠」は男女間の愛憎をテーマにしておりますが、「番町皿屋敷」にはそういう要素がないのも関係しているかもしれません。

・備考
 貸本。糸綴じあり。カバー貼り付け。前側の袖にテープ痕あり。背表紙の上下に欠損あり。

2017年3月5日 ページ作成・執筆

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