森由岐子
「さやかと和香」(1975年9月15日第1刷・1978年4月15日第5刷発行)
「呪いの夜の鬼」(改題/1981年7月15日第1刷・12月10日重版発行
「能役者の家元、巴千之丞は、涼子という許嫁がいるにも関わらず、女中のふきと相思相愛の仲であった。
涼子は巴家に嫁入りするものの、千之丞はふきを離れに住まわせ、涼子の妊娠と時を同じくして、ふきも千之丞の子を身籠る。
逆上する涼子であったが、千之丞は離縁をほのめかされ、涙ながらにいつかこの恨みを晴らそうと決意を固める。
後日、涼子とふきは同日に女児を出産する。
涼子の子はさやか、ふきの子は和香と名付けられ、二人とも、見分けがつかない程、よく似ていた。
千之丞は、和香が将来、涼子にいじめられるのではないかと危ぶみ、こっそり赤ん坊を交換する。
一方の涼子も、自分の身に何かあった時、ふきが後妻になり、和香が跡取りになるのではないかと疑い、赤ん坊をすり換える。
月日は流れ、千之丞は病に臥す身となり、巴家の実権は涼子が握るようになっていた。
涼子は、能の修行と称し、さやかをいじめ抜く。
そうした虐待を受けながらも、さやかは心優しく、美しい娘へと成長する。
つらい日々の中、彼女の唯一の慰めは、能面師の青年、正人であった。
さやかと正人はお互いに愛し合うようになるが、和香も正人にひそかな想いを寄せる。
和香の想いを知った涼子は、さやかの美貌を損なうべく、非道な仕打ちに及ぶ。
遂には、さやかに、裏側に毒を塗った能面をかぶらせ、彼女の顔は醜く焼けただれてしまう。
母の自分への憎しみの原因を探るうちに、さやかは千之丞から彼の秘密を知らされる。
以来、さやかは一時も仮面を外さず、部屋に引きこもり、誰とも会おうとしない。
そして、さやかの襲名披露公演の日を迎えるのだが…」
「赤ん坊の交換」をテーマにした作品は多々ありますが、「赤ん坊の交換のまた交換」はあまり目にしない気がします。(注1)
ストーリーは非常に陰湿で、ヒロインの運命は悲惨の一言です。
読後感は決してよくはありませんが、良作だと思います。
・注1
いばら美喜先生「ある遺伝」(「怪談・55」収録)のように、「赤ん坊を交換したはずが、実際はしてなかった」というパターンもあります。
2019年1月31日 ページ作成・執筆