わたなべまさこ「リリアム」(1995年7月25日初版発行)

 収録作品

「リリアム」
・「Part.1 モスリン服の子」(「週刊少女コミック」1976年11月28日号
 コロラド米軍秘密基地。
 そこでは、ローラン・ブレミンガー博士により特殊兵器の開発が極秘に行われていた。
 ある日、博士の娘、リリアムは秘密基地の宿舎から、父親のいる研究所を訪れる。
 しかし、面会は禁止されており、落胆したリリアムが帰ろうとした時、防護衣を着た男に呼び止められる。
 男は「博士からのおことづけ」と言って、リリアムに箱を渡す。
 その中には、ピカピカと光る粘土が入っていて、リリアムは大喜び。
 だが、それは触れた者を狂わせる「XO66」という特殊兵器であった…。
・「Part.2 ロサンゼルスの空」(「週刊少女コミック」1977年1月9日号
 ブレミンガー博士の部下、ボウエン・ガスコン陸軍中尉と共に、リリアムは、祖母の住むロサンゼルスに向かうこととなる。
 だが、ボウエンは急遽研究室に呼び出され、リリアムは空港で彼を待つことになる。
 リリアムはミッキー・ブライアンという空軍兵士と知り合うと、彼を粘土の人形で発狂させ、空軍機に乗り込む。
 その空軍機の機長、トーマス・ニュート中尉は、ミッキーを含めたクルー全員に憎まれていた。
 閉鎖された飛行機の中、クルー達は次々と狂っていき…。
・「Part.3 ユタ=2:00AM」(「週刊少女コミック」1977年1月23日号
 リリアムはダニィという老人に拾われ、彼の娘、ラナの家を訪れる。
 ラナはアル中の毒母で、娘のメリィを養子に出して厄介払いしようとしていた。
 リリアムは納屋で一夜を過ごすが、一匹のネズミが粘土の人形を巣に引き込む。
 翌日、トレーシイ夫妻がメリィを引き取りにやって来るのだが…。
・「Part.4 恐怖のルート91」(「週刊少女コミック」1977年2月6日号
「NO.1 ハイウェイ・バス」
 ハイウェイを疾走するバス。
 バスには、ネズミの襲撃から生き残った人々が乗り合わせていた。
 リリアムは彼らを慰めようと、粘土で鳥を作り、乗客達に配るのだが…。
「NO.2 マーク・ラケットくん」
 マーク・ラケットは学校一の秀才で、ラケット家の誇り。
 十五年間、母親の作った計画表に従って動き、今朝も時間通りに散歩に出かける。
 途中、彼は、公園のベンチで寝ている女の子を目にする。
 ベンチのそばには、彼女のバスケットが落ちていた。
 一応、親切心を出し、彼がそれを拾った時、中の粘土に触れてしまう。
 その途端、彼に意外な変化が…。
「NO.3 ホスピタル・102号室」
 発見されたリリアムは、ある病院の102号室に隔離・監禁される。
 ブルース医師は、その部屋に、どうしても必要な資料があり、見張りのフリートに頼み込んで、中に入れてもらう。
 部屋では、リリアムが寝台に拘束されて、脳波のテストを受けていた。
 ブルース医師は、彼女のバスケットを好奇心から覗いてみるのだが…。
・「Part.5 ビバリー=ヒルズキャノン通り32番地」(「週刊少女コミック」1977年2月20日号
 病院でのリリアムの検査により、彼女の脳細胞が復活しているという驚くべき結果が出る。
 ボウエンは彼女が正常だと主張するも、彼女を見つけ次第、射殺するよう大統領指令が出ていた。
 一方、リリアムは公園で浮浪児のブッチと出会い、下水道へ降りる。
 新聞記者のリノはブッチと知り合いで、彼は集団発狂事件の手がかりを得るのだが…。
・「Part.6 ニューヨークUSA」(「週刊少女コミック」1977年3月6日号
 リリアムは、ニューヨークの軍施設に連れて行かれる。
 ブレミンガー博士の同僚だったぺインター教授はリリアムに対して冷たく、「XO66」の秘密を守ることしか頭にない。
 ボウエンは、リリアムがマイアミの基地で処刑されることを知り、彼女を連れて逃げる決心をする…。
・「Part.7 天使の歌う夜に」(「週刊少女コミック」1977年3月20日号
 ボウエンは、黒人の売春婦ベテイに匿われる。
 しかし、警察はしらみつぶしの捜索を行い、ボウエンは路地の片隅で逃げ場を失う。
 そこに、大量発狂事件が発生。
 この混乱に乗じて、ボウエンはニューヨークからの脱出を図るのだが…。

「あやかしの夜」
「海辺にある洋館。
 少年の母親は結核で寝たきりであった。
 父親はよそに女をつくり、死期の近い妻に離婚を迫るという人でなし。
 少年は母親を心から慕うが、子供の身で何もできない。
 母親の死が目前に迫った時、少年は、望みを一つだけ叶えてくれるという伝説の海蛇に必死に祈る。
 少年が望んだこととは…?」

 最大最高の漫画家の御一人、わたなべまさこ先生は怪奇マンガも数多くものしております。
 怪奇マンガと一口で言いましても、時代物から西洋もの、サスペンスにサイコ・ホラーと多岐に渡り、その全貌を捉えるのは容易ではありません。
 とりあえず、怪奇マンガでの代表作と言えば、究極の傑作の一つ、「聖ロザリンド」でありましょう。
 その陰に隠れて、裏「聖ロザリンド」と言うべき「リリアム」という作品がありました。(注1)
 単行本化には恵まれなかった模様ですが、一読して納得、封印されてもおかしくない内容です。
 いや、もう皆さん、心ゆくまで「発狂」しまくっていて、読んでいて気持ちがいいぐらいです。
 グロ描写も半端なく、そんじょそこらの生ちょっろい怪奇マンガよりも遥かに上です。
 ラストに近づくにつれ、尻すぼみになっている感があるのが残念ですが(注2)、ロサンゼルスどころかニューヨークまで「キチガイ地獄」(by 夢野久作)になっているので、よしといたしましょう。

 ただし、この作品は元ネタがあります。
 ジェームズ・ハーバート「霧」(サンケイノベルズ/昭和51年9月29日1刷発行)(注3)
 この小説は、軍の開発した発狂ガスが地震によって漏れ出し、そのガスに包まれた人々が狂いまくる…という、何ともストレートな内容を、徹底的かつオゲレツに描写しており、そのスジでは有名な作品です。
 「リリアム」にも「霧」を思わせる描写がちらほらあって、推測の域を出ませんが、先生の担当者がこの内容で描くよう勧めたのではないでしょうか?。(もしも、わたなべまさこ先生が「霧」を読んでいたら凄過ぎですが…。)
 でも、何が凄いかって、「あら、なかなか面白そうじゃな〜い。私もマンガで描いてみよ〜っと。」と考えた(かもしれない)わたなべまさこ先生が一番凄い!!
 嗚呼、やっぱり、わたなべまさこ先生は、最高だ〜!!

 ちなみに、似たようなテーマの怪奇マンガとしては、曽祢まさこ先生の「殺す月」や、関よしみ先生の「死にたいの2」などがあります。
 あまり作品数は多くないので、怪奇漫画家の皆様、発奮してくださいませ。

・注1
 雑誌版と単行本の差異(ただし、粗筋や次号予告等は省略)
「Part.2 ロサンゼルスの空」→リリアム人形の応募が載った見開きのタイトルページが単行本では削除。単行本での扉絵は、雑誌の「Part.3 ユタ=2:00AM」のもの。
「Part.3 ユタ=2:00AM」→単行本の扉絵は、雑誌の「Part.7 天使の歌う夜に」での粗筋解説ページより。雑誌での「ラナがネズミの大群に取り囲まれるシーン」(pp126・127)削除。
「Part.7 天使の歌う夜に」→粗筋解説ページ(p178)削除。

・注2
 あと一つ残念なことは、少女漫画雑誌という制約のためか、性描写が全くないことでしょうね。
 わたなべまさこ先生は「濡れ場」の描写にかけては天下一品だと個人的に考えております。
 「XXX(トリプル・エックス)」バージョンで、キチガイ共の乱痴気騒ぎをとことん描いて欲しかったなあ〜。(完全に封印作品になったでしょうが…。)

・注3
 関口幸男氏による翻訳はどうも固すぎるので、光文社様、どうか古典新訳文庫で出してくだされ〜。

2016年12月16日 ページ作成・執筆
2018年6月11日 加筆訂正
2021年8月4・15日 加筆訂正
2021年10月9日 加筆訂正

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