成毛厚子「標的 便利屋『飛猫』依頼メモ」(2006年11月29日第1刷発行)

 便利屋「飛猫」はいわゆる「何でも屋」。
 メンバーは社長、近田一(ちかだ・はじめ/彼女がおらず、妄想癖あり)、ルミ子(第一話で入社/コスプレ大好き)の三人。
 今回、飛猫に持ち込まれる依頼とは…?

・「変わり身」
「近田一は鎌本という家を訪れる。
 仕事は三階のルーフ・バルコニーの清掃であった。
 ルーフ・バルコニーの外側の窓には血のような汚れが幾つもついていたが、よくよく見ると、それは木の実が潰れてできた汚れで、隣の木の実が風で飛んできているらしい。
 しかし、一階や二階の窓ガラスは汚れておらず、また、この場所はどうも居心地が悪く感じられる。
 近田が清掃に取り掛かると、水だけで汚れは落ち、そこまで手間はかからない。
 だが、気が付くと、また汚れが浮き出ていて、汚れは根深そうに見える。
 翌日、彼はまた鎌本の家に呼ばれる。
 そこの主婦が急に入院したとのことで、熱帯魚の餌やりと樹木の水やりに加え、バルコニーの掃除もまた依頼されていた。
 近田がルーフ・バルコニーに行くと、昨日よりもひどく汚れている。
 しかも、血のような液体が窓ガラスの上から流れ落ちていた。
 近田が訝っていると、窓の内側でモップがつっかえ棒になって、彼はバルコニーに締め出されてしまう…」

・「嫌がらせ」
「北原家では玄関前に犬の糞が毎朝、置かれる嫌がらせを受けていた。
 犯人と思しき人物はボロ家に三匹の犬と一緒に住んでいる、下嶋という独身男。
 近田はその家の老婦人に犯人を見つけるよう頼まれ、植木にハンディカメラを据え付け、監視する。
 カメラには下嶋が犬を散歩しているのが映っていたが、肝心の犯行現場は電池切れで映っていない。
 それでも、一応、近田は下嶋へ文句を言いに行く。
 しかし、嫌がらせは一向に止まず、エスカレートしていき、老婦人はストレスをため込んでいく。
 ある晩、近田が監視を続けていると、その家の奥さんが彼に犯人捜しを止めるよう頼む。
 彼女は嫌がらせがエスカレートするのを怖れていた。
 そこに下嶋が北原家に犬を返すよう乗り込んできて…」

・「ぼくの部屋」
「今回の仕事は引きこもりの男性、博之を二時間、外に連れ出すこと。
 この家では父親が亡くなり、相続税を払うため、家を売らなければならないが、その権利書は息子の博之の部屋にあった。
 彼は母親の死後、父親が後妻を取ったことに反発して、26年もの間、引きこもっており、説得には全く応じそうにない。
 ルミ子は、ドアさえ開けさせることができれば、後はうまくやれると自信があり、一人でこの仕事を受け持つ。
 相手が引きこもりのため、「色気」は通用しそうになく、それならば、「食い気」で勝負。
 ルリ子はオムライスを作り、彼の部屋の前に置くと、彼はそのオムライスの味にショックを受ける。
 五歳年上の姉、メグミの作った料理と同じ味らしい。
 メグミは彼の母親代わりであったが、カタギでない男と付き合い、反対されると家を出て音信不通になっていた。
 博之はルリ子に姉の面影を重ね、徐々に心を開いていくのだが…」

・「悪夢の果て」
「嶋津キヌ(80歳)は高級住宅地の一軒家で一人暮らしをする未亡人。
 夫亡き後、彼女は気ままな一人暮らしを満喫していたが、今その生活が危機に瀕していた。
 権田原という近所のおばさんが度々押しかけてきては、親切の押し売りをしてくるのである。
 しかも、親切の押し売りは徐々に強要にまでエスカレートし、嶋津はノイローゼ寸前となる。
 そこで彼女は「飛猫」に夜逃げの依頼をするのだが…」

・「追いかけっこ」
「依頼で近田は夫を亡くした女性(浅美)とその息子(タケル)をキャンプ場に連れてくる。
 彼は浅美との仲が発展することを期待するが、そのキャンプ場には梨田家が来ており、二家族で(近田以外は)楽しく過ごすこととなる。
 その最中、近田は森の陰から浅美を見つめる男に気付く。
 彼女の話では夫の元・同僚で、彼女のストーカーらしい。
 その夜、近田はボディガードをするため、バンガローの玄関に寝袋に入って横になる。
 妄想に浸っているいるところを男に襲われるが、灯りがつくと、男の姿はなく、しかも、どの部屋の窓も戸も鍵がかかっていた。
 早朝、近田は二人を自分のアパートに連れて行く。
 ここならストーカーから安全と思い、彼は仕事に行くのだが…」

・「標的」
「栄子はアパート住まいのOL。
 彼女には健治という恋人がいたが、彼は今、ニューヨークで仕事をしており、心細い思いをしていた。
 ある夜、彼女は拓郎という青年と知り合う。
 彼は商店街の肉屋の息子で、彼を通じて、彼女は下町の人情に触れる。
 彼女は彼に下町が好きだと話すが、以来、彼は彼女の私生活に土足で踏み込むようになる。
 しかも、下町の連中がそれに加担していた。
 拓郎は彼女に横恋慕しており、彼女が断っても、簡単にはあきらめそうにない。
 そんな時、彼女は「飛猫」のメンバーと知り合い、引越しを敢行するのだが…」

 成毛厚子先生は「サスペンス&ホラー」(講談社)のイメージが強く、その後の作品はあまり話題に上りませんが、ベテランだけあってコンスタントに良作を発表しております。
 「便利屋『飛猫』依頼メモ」シリーズもその一つで、ホラーよりはサスペンス色が強めです。
 幽霊や妖怪はさほど出て来ず、キチガイやストーカーといった現代的なものをイヤなリアリティ満点に描き、「悪夢の果て」「標的」などは「怖い」を通り越して「ヤバい」です。
 でも、そこを脳天気かつ個性的なキャラたちが見事に中和して、エンターテイメント作品としてちゃんと成立させているのは流石の一言。
 成毛厚子先生の作品はシリアスで冷たい印象がありましたが、コメディ・タッチの入った作品はセンスが良く、下品にならず、私は好きです。

2025年12月25・31日 ページ作成・執筆

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