谷ゆきお「血いろの蛾」(220円/1968年3月頃完成)


「埼玉県、坂戸町。
 初春の午後、寺崎ナナは、クラスメートで親友の佐藤糸子を見舞う。
 糸子は原因不明のまま、衰弱し、寝たきりになっていた。
 彼女の家で、ナナは家庭教師の梓麻紀(あずさ・まき)と出会う。
 麻紀は教師をしていたが、身体が丈夫でないため、東京からこちらに最近、引っ越してきたのだと言う。
 ナナが糸子に会うと、彼女は夜が怖いと必死に訴える。
 糸子の願い通り、ナナは彼女の家に数日、滞在する。
 夜、糸子の呻きを耳にし、ナナが糸子の部屋に駆け付けると、糸子の首に真っ赤な蛾がとまり、血を吸っていた。
 吸血蛾に警戒して、次の夜、ナナは糸子と同じ部屋で休む。
 人の気配を感じたナナがカーテンをはぐると、窓ガラスに顔を押し付けている女性の姿があった。(注1)
 女性は姿をすぐに消し、部屋に血色の蛾が現れる。
 ナナは蛾をお盆で蛾を叩き潰し、以来、糸子の身辺に異常はなくなり、体調も回復。
 糸子の家を辞去する際、ナナは梓麻紀の家を訪れる。
 と言うのも、窓越しに見た女性は梓麻紀であるという思いを拭えなかったからであった。
 ナナは、そこの浴室で、麻紀が砂で満たした浴槽に身を沈めているところを目にして、逃げ去る。(一応、伏線)
 次の朝、ナナは糸子が急死したとの知らせを受ける。
 ナナは家庭教師の梓麻紀が糸子の死に関わりがあると考えるが、証拠がない。
 そして、吸血蛾の魔手はナナにも伸びる…」

 谷ゆきお先生の「吸血鬼」ものです。
 基本的な骨組みは「吸血鬼ドラキュラ」と同じですので、ストーリーに新味はないのですが、そこは谷ゆきお先生、「独自の解釈」が本作でも光ります。
 まず、女吸血鬼と言えば、レ・ファニュのカーミラ(名作!!)を筆頭に、基本、淑女で、吸血鬼の時は微かに淫靡な雰囲気が漂うような印象を私は持ってますが、そんなもん、歯牙にもかけておりません。
 ヒロインを襲う時には、暴行魔顔負けのアグレッシブさで全力投球(左下画像)、血を吸う時は、鋭く伸びた犬歯があるのに「タコ口」でチューチュー吸っております(右下画像)。


 しかも、ネタばれになりますが、「土や砂の中で復活する」という(意味不明な)設定まで加えられております。
 ここまで身も蓋もない女吸血鬼は私が知る範囲では、あまり存在しません。
 また、吸血鬼を扱った作品のクライマックスは、やはり、吸血鬼退治!!
 谷ゆきお先生は「子連れ狼 三途の川の乳母車」並みの豪快なスプラッター描写でキメてくれます。

 こうして読み返すと、谷ゆきお先生の魅力は「奇想」以外にも「読者を楽しませようとする、旺盛なサービス精神」があるように思います。
 そのサービス精神が溌剌としたエンターテイメント性につながり、今、読んでも、かなり面白いのではないでしょうか?

・注1
 部屋を覗き込む際に、鼻と口を窓ガラスに押し付けている描写を、もしかしたら、この人生で初めて目にしました。

・備考
 状態、非常に悪し。I文庫仕様(カバー裏に新聞紙等による補修。表紙を本体から取り外し、本体を何らかの厚紙で覆っている)。糸綴じあり。カバー痛み(特に、背表紙がボロボロかつ色褪せ)。とにもかくにもボロい!!(こんな状態でも、谷ゆきお先生の作品は今や入手困難となりました。南無〜。)

2018年2月9日 ページ作成・執筆
 

東京トップ社・リストに戻る

貸本ページに戻る

メインページに戻る