杉戸光史「火娘の墓」(220円)



「ある町で支持を広げつつある、新興宗教、立傚(りつこう)会。
 神通力を持つと言われる少女、長野間妙子を教祖に据え、会長の出歯野日狂は信者から献金を巻き上げていた。
 更に、立傚教を誹謗するものや献金を拒む者には、天罰として、空から火の玉が降って来て、家に火事を起こすことで、恐れられていた。
 ある日、蒲生れい子は、同級生だった長野間妙子と偶然に出会う。
 妙子はれい子に近いうちに、姉に絡んで事件が起きると予言し、その時には自分に相談するよう告げる。
 その言葉通り、れい子の家では、姉、美雪の結婚話でトラブルが持ち上がる。
 美雪は貧乏な画学生と結婚を望んでいたが、父親は断固反対。
 美雪は実は捨子であり、将来、縁談等で何らかの利益を出すために、育てられたのであった。
 家を走り出て、森で涙にくれる美雪の前に、妙子が現れる。
 妙子は、美雪の不幸はご先祖の供養することで解消されると話し、この町のどこかにある無縁仏の墓を探し出すよう勧める。
 勧めに従い、苦心の末、祖先の墓を見つけた美雪は、熱心にその墓に祈る。
 だが、日を追う事に、美雪はやつれ、言動がおかしくなっていく。
 一方、立傚会の熱心な信者である、れい子の父親にも狂気の影が濃くなっていく…」

 「宗教」をテーマにした作品でありまして、なかなか面白いと思います。
 杉戸光史先生の作品は、大抵、謎が徐々に明らかになるミステリー仕立てでして、ぶっちゃけ千篇一律な感じがするものなのですが、この作品では、胸がすくぐらいの王道の狂いぶりを見せる狂女や、楽しそうにピョンピョン跳ねまくる「キツネつき」娘と悪霊に憑かれた親父が殺し合いといった描写が素晴らしい!!

 その描写の前では、杉戸光史先生が提示しようとした「新興宗教」の問題はすっかり霞んでしまってます。
 杉戸光史先生にとっては、ご本意ではないと思いますが…。

 ちなみに、杉戸光史先生がどれほど「宗教」というものを真摯に考えていたか、ちっとも休憩にならない「休憩のページ」(pp70・71)や巻末の作者のページ(p132)を参考にしてください。
 こんな感じで突き進んでいけば、つのだじろう先生や黒田みのる先生といった、オカルト漫画の元祖の一人となったはずですが、杉戸光史先生は一漫画家として生きる方を選びました。
 そして、「感応」…いや、「官能」マンガでそれなりの成功を収めたのでありました。(ちょっぴりうまいことを言った気分で、どや顔してます。)

・備考
 ビニールカバー貼り付け、また、それによる本体の歪み。p15に軽く鉛筆の落書きあり。pp77・78、下部に大きな裂けあり。pp85・86、コマにほんの少しかかる欠損あり。後ろの遊び紙に貸出票の貼り付けあり。

2016年9月27日 ページ作成・執筆
 

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