いばら美喜「泥んこ」(1965年末頃?/220円)

「帰省から東京に戻る途中、野沢志郎はある老婦人と向かい合わせの席となる。
 急病で倒れた老婦人を親切にも病院まで付き添って行った志郎は、老婦人よりある頼み事をされる。
 老婦人には矢代美津江という一人娘がおり、四年前に家出して、東京に出た切り、会っていない。そこで、彼女に故郷に帰るよう言付けして欲しいというものだった。
 老婦人から美津江の写真とお金を貰い、志郎は休暇の残りを使って、彼女に会うことを決心する。
 美津江が勤めた工場から、美容院、喫茶店、バーと志郎は訪ね歩くが、美津江にはなかなか会えそうにない。
 そのうちに、志郎は写真でしか知らない美津江に恋をし始めるのだった…」

 厳密には「怪奇マンガ」でないのですが、「いばら美喜」先生の作品なので外せません。
 ストーリーは恐らく、ビル・S・バリンジャー「煙で描いた肖像画」(1950年)(注1)の影響下にあるのではないでしょうか。
 ただ、それ以上に、当時の東京の風俗描写の方が魅力的です。
 その当時は影も形もなかった私ですが、そんな私でも、平凡な風景の何気ないスケッチに心打たれます。
 また、「青春リサイタルシリーズ」の大きな特徴として、いばら美喜先生独特の美しい女性の絵が何枚もありまして、堪能できます。
 参考までに、右に一枚載せておきます。
 この作品、後に「罠にまた一歩」という作品としてリメイクされております。(注2)

・注1
 創元推理文庫(2002年7月12日初版)で読めます。

・注2
 程よくまとまった短編でして、かなり面白いです。
 ラストは「太陽がいっぱい」ですしね…。
 余談ですが、「太陽がいっぱい」の原作者はパトリシア・ハイスミスという作家ですが、彼女には「かたつむり」という大傑作があります。
 孤島で巨大なかたつむりの群れに追っかけまわされる動物学教授の災難を描いた短編で、腰が抜ける程、面白いので、興味を持たれた方は是非読んでくださいね。
「幻想と怪奇 宇宙怪獣現る」(ハヤカワ文庫/2005年3月31日発行)に収録されております。

・備考
 状態悪し。ビニールカバー貼り付け。カバー痛み。小口研磨によりサイズ一回り小さい。pp5〜14、大きな裂けとそれをセロテープにて補修、そのテープが変色。小さな裂けをセロテープで幾多も補修、それが全部変色…。目立つシミ多し。

平成27年10月21日 ページ作成・執筆
 

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